はじめに

 人それぞれに考え方や好みが異なるように、一〇〇人いれば一〇〇通りの人生が存在します。
 若くして成功を収める人もいれば、人生の後半にじわじわと追い上げながら花を咲かせる人もいるでしょう。
 しかし、〝勝ち組〟〝負け組〟という言葉が横行する現代社会において、評価の対象となるのは目に見えて分かりやすい成功を収めた〝早咲き〟の人たちです。
 若いころはなかなか成果の出せない〝遅咲き〟の人が、今の世の中で正当な評価を受けることは稀です。なぜなら、このようなタイプの人は、今の社会構造の下において、花を咲かせる前の芽を出す段階で摘み取られてしまうことが多いからです。

 私が東洋医学(漢方医学)に携わってから四五年以上になりますが、その臨床経験から「この人は早咲きだけど、このままだと人生の後半で健康を害して失速するな」とか「この人は今は不遇の時代を過ごしているけど、人生の後半に芽が出そうだ」ということが診療をしながら分かるようになってきました。
 そういった私の予測の基になっているのは、漢方医学でいう「実証」「虚証」という人間の体質分けの考え方です(詳細は本書の中で述べます)。
 人生の後半からじわじわとその力を発揮し始める大器晩成型の人は、若いころはなかなか目立つ活躍や目覚ましい業績を残すことが少ないかもしれません。でも、だからといってその人は〝ダメ人間〟かといえば決してそんなことはないのです。
 若くして〝ダメ人間〟のレッテルを貼られてしまい、社会からドロップアウトしそうになる人は世の中にたくさんいます。ところが、その多くが「自分は遅咲きの人間だ」ということに気付いていません。私はそんな人たちを見るたびに、早々に遅咲きの人を切り捨ててしまう今の社会の在り方に憤りを感じてきました。

 本書を記したいちばんの理由は、そんな大器晩成型の人たちに〝自分の可能性〟に気付いてほしかったからなのです。
 人生の後半に花を開かせるためには何が必要か、どのようにしたらいいのか。本書ではそれらを漢方医学の考え方をベースにしつつ、過去・現在の偉人たちの例なども交えながら解説していきます。
 歴史を紐解けば、本文でも取り上げる葛飾北斎や伊能忠敬、ダーウィンやファーブルなど大器晩成型の人生を歩んだ有名人は少なくありません。
 生き馬の目を抜くような変転目まぐるしい戦国乱世にも、このタイプの人生を歩んだ人物は意外なほどたくさんいます。あの徳川家康は五九歳で天下取りに動き出し、七四歳にして天下統一を成し遂げました。
 五六歳で戦国大名となった北条早雲はなんと八〇代半ばまで戦い続けたと言われています。さらに〝三本の矢〟でおなじみの毛利元就も五〇~七〇代の人生の後半で中国地方を支配下に収めました。〝人生五〇年〟の時代としてはいずれも驚異的な大器晩成型の人生といえるでしょう。
 本書で詳述しますが、実証、虚証という体質の違いによって、人生の後半に花を開かせるための生き方も異なってきます。
 現在がうまくいっていないとしても、やり直しはいくらでもききます。今ダメなのはむしろ、未来に花を開かせるためのエネルギー充電期間ともいえるのです。
〝人生八〇年〟といわれる今の社会なら、やり方次第で人生の後半にひと花もふた花も咲かせることができます。
 本書ではその理由、秘訣をご紹介していきたいと思います。