まえがき
よい物語には、サスペンスがある
エンターテイメントの基本は「サスペンス」にある、というのが僕の持論です。
サスペンスとは、その手の本を調べると「ラテン語の『吊るす』が語源で、気がかり、不安な状態をさし、読者をはらはらさせる緊張感の効果をいう」といった具合に説明されています。
だからサスペンスと聞くと、殺人があって、主人公が追いこまれて、といったミステリー色の強い作品を連想する人が多いかもしれません。しかし、確かにそれはサスペンスの王道ではありますが、それだけがサスペンスではない気が僕はします。
たとえばラブストーリー。男女が出会って、男が女に恋をする。でも同じタイミングで女を好きになった恋敵が現れて……。もしくは不倫もの。人目をはばかって男女が逢瀬を重ねる。これらは立派なサスペンスです。なぜなら「この後、どうなるんだ?」「見つかったりバレたりしたら、これはやばいぞ……」と観る者をドキドキさせて、先へと引っぱっていく「何か」がありますから。
しかし、これが最初から男女がくっついていて、ただただいちゃついている話を観せられても、全くもって「やれやれだぜ……」です。観ていてハラハラもしないし、その先の展開に対しても興味が湧いてきません。つまりラブストーリーひとつをとっても、サスペンス要素がなければ面白いラブストーリーにはならないんです。
サスペンスはミステリーだけでなく、バカバカしいコメディの中にも、子供向けのアニメの中にも存在します。サスペンスの要素がストーリーの下敷きになっていたり、スパイスとして盛りこまれている物語は、面白くなっていく。よい物語には必ずサスペンスがあるんです。