四連動地震というリスク
東日本大震災以降、「南海トラフ巨大地震」という言葉を聞くようになった。
これまでなら「東海・東南海・南海地震」と呼ばれていたものだ。何故呼び方が変わったのか。
まず東日本大震災で注目されたのは、震源となった三陸沖、日本海溝の地形の変化だった。東北地方太平洋沖地震は、水深約七〇〇〇メートルの海底で、プレートが大きく五〇メートル前後動いた。
これまで地震は、プレートとプレートの接する深い地点で起きると思われてきた。しかし東日本大震災での大津波は、深い場所と浅い場所が二度に分かれて跳ねあがることにより、二つの津波が重なり、さらに大きな津波となったと考えられている。
こうした事実から、将来の東海・東南海・南海地震においても、南海トラフの浅く広範囲な場所で「四つめの地震」が起こる可能性が浮かびあがった。実際に南海トラフ付近の海底地層をボーリング調査したところ、過去に起きた地震の跡が発見されている。
そうしたことから、東海・東南海・南海地震に新たな可能性を加味して総称したのが、南海トラフ巨大地震だ。
二〇一二年八月に内閣府が発表した被害想定は、この南海トラフ全体で最大クラスの地震が発生すればどうなるか、というものだ。
主な被害は、静岡、三重、和歌山、徳島、高知、宮崎などの沿岸部で、最悪のケースは三〇都府県で死者三二万三〇〇〇人、うち津波による被害者が二三万人。建物被害二三八万二〇〇〇棟に達する可能性があるという。
たとえば、現在高知市に建てられている避難用の津波対策センターは、高さ一四メートルである。しかし今回の想定では、津波の高さが室戸市二四メートル、高知市一六メートル、黒潮市と土佐清水市で三四メートルである。そんな津波が押し寄せれば、これまでの施設は意味をなさなくなる。
ただ地震が同時ではなく、時間差をもって発生した場合、連動の場合ほどの規模にはならない。しかし複数の津波が重なり、高さはないが規模の大きい津波になる可能性はある。そうなると、瀬戸内海沿岸にも津波被害が及ぶ可能性がある。
また東海・東南海・南海地震の三つが連動して起きた一七〇七年の宝永地震のように、宮崎県東部沖合の日向灘で新たな地震が発生して四連動地震となり、大津波が起きた例もある。
二〇一一年三月の東日本大震災は、私たちに多くの教訓を与えてくれた。
最も重要なことは、M9の大地震の可能性、そしてその後に想定外の大津波が襲ってくる可能性があるということだ。
東海・東南海・南海地震については、政府も中央防災会議や有識者会議を通じて多くの報告書を出している。
同時に政府や自治体はその結果を重視し、様々な対策をとっている。また計画もしている。さらに、危険地域に住む住人、企業も様々な対策をとっている。避難訓練や勉強会、高台移転、事業継続計画(BCP)の策定などだ。
しかし災害に筋書きはない。起こる季節、時間帯、場所などによって、被害の様相はまったく異なってくる。さらに個人においては、その時の心理状態によっても被害は異なるだろう。
大切なのは冷静さと想像力だ。どんな状況で、どんなことが起ころうとも慌てず冷静に行動することこそ、生き残り、被害を最小限にとどめる方法ではないか。そして必ず生き抜こうという精神力が重要だろう。
そのために最も重要なことは、災害を知ること。災害とはどんなもので、どんなことが起こるかを知っていれば、冷静に臨機応変な行動がとれる可能性が高くなる。
第二章では、様々な報告書で発表されている災害の様相と国や自治体の対策を紹介するとともに、「その時」の「私」の行動を考えてみた。
もしこういう事態があなたの身に起こったら。あなたならどうするだろうか。