はじめに 人はなぜ離婚するのか?

 男性は、どういう時に離婚したいと思うのか。実際に離婚をするのはどういう時か。また、どういう人が離婚したいと思うのか。離婚するのか。そこを探るのが本書の目的である。
 一般に離婚の原因は男性側にあると言われることが多い。浮気とか、夫が仕事人間で妻の相手をしないとか、収入の減少とかが離婚の主な理由である。
 たしかに私が中高年男性を対象に行った調査でも、離婚の最大の原因は夫の浮気であり、全体の16%。夫が仕事ばかりして妻の相手をしないことが、第3位で14%。
 しかし第2位は妻の金遣いが荒いことであり、15%。第4位は妻の浮気で11%である。経済的理由としては、年収の低下が離婚の原因になったという回答が9%弱である(101ページ参照)。
 つまり、どちらかと言えば男性のほうに落ち度があることが多いものの、男性だけが悪いわけではない。女性の側にも離婚の原因はかなりあるのである。
 また、実際に離婚をするところまでは行かないが、男性が離婚したいと思った理由で最も多いのは、浮気でも経済的理由でもなく、子どものしつけ、教育、お受験などについての意見の食い違いであり、26%もある(101ページ参照)。
 次いで多いのは、先述した妻の金遣いの荒さで18%。3番目が、居住地、家具、インテリア、ファッションなどの趣味が違うことで、16%。つまり、どこに住むか、どんな家に住むか、そこでどんな格好をするかが妻の権限で決められてしまうので、夫が不満に思うのである。4番目が、妻が家事をきちんとしないことへの不満で、15%である。
 こういう事実はマスコミではあまり伝えられていないのではないか。マスコミ、特にテレビは女性が主なターゲットだから、女性の反感を買うようなことを情報にしないのであろう。
 悪いのはすべて男、そう言っておけば視聴者の溜飲は下がる。マスコミに登場する女性評論家だか、フェミニストだか知らないが、そうした人々は、男女の対立、夫婦の対立をあおるようなことばかり言い散らかす。対立したほうが、話が派手で面白いからであり、つまるところ、視聴率が上がるからであろう。
 しかし、悪いのはすべて男という論理は、これから本書が明らかにするように、事実とは異なる。そんなに男が得をして、女が損ばかりしている社会なら、「序」で書くように、年間3万人を超える自殺者の7割が男性で占められるはずがない。一面的な「勧善懲悪」ならぬ「勧女懲男」的な物の見方は、ゆがんだものであろう。そうした色眼鏡をかけずに、本書では、あくまでアンケート調査などの客観データを元にして、離婚と離婚願望の原因を探っていく。
 本書で使用したアンケート調査が明らかにしているのは、離婚問題が階層問題であるという点である。テレビドラマでは、比較的裕福な階層の夫婦が離婚するが、現実には、比較的貧しい夫婦が離婚していることが調査から明らかになる。
 だから、一流企業に勤める仕事人間の夫が、長年妻の相手をせずにきたために、定年と同時に妻から離婚を突きつけられるというケースは、調査を見る限り、珍しそうなケースだと言わざるをえない。
 そういうケースは、いわば、美男美女が夫婦役を演ずるおしゃれなテレビドラマになりやすい離婚なのであって、離婚全体の現実とは離れているように思える。裕福な階層の夫婦の離婚は、それが珍しいからドラマになるのであって、現実には、貧しい階層の夫婦の離婚のほうが多いのである。
 だからといって、私は、現在の中高年男性に問題がないと言いたいのではない。むしろその逆である。彼らはあまりに経済活動に専念しすぎており、家族や地域や友人たちとのつながりを十分に持てないでいる。これからの社会、特に高齢社会の進展の中で生き延びていくためには、それらのつながりを持つことは非常に重要である。そのために何をすべきかも最後に考えてみた。