原発の廃炉はただでさえ大変な作業です。福島第一原発では、どのような方法が考えられるでしょうか。一機で成功すれば、少なくとも一〜三号機の間では応用が利きますが、大きな問題が二つあります。核燃料そのもの、そして核燃料が触れた高濃度汚染物のそれぞれをいかに処理するのか。突き詰めれば長寿命核種のプルトニウムを含んだものをどうするのかということです。
今の状況下で圧力容器や格納容器から核燃料を取り出す技術は存在しません。もちろん、人間は入れず、すべてを遠隔操作せざるを得ませんが、あれほどの放射能のもとで、長時間にわたって正常に動作してくれるカメラが必要となります。宇宙では放射線が機器に影響を及ぼしますが、月面を撮影するよりもひどいかもしれません。さらに、一度使用すると機器自体が汚染されて線源となり、メンテナンスさえ危険になります。使い捨てにせざるを得ないでしょう。
直径一〇メートルもある格納容器の床から溶融した核燃料を剝がす方法は、誰も思いついていません。一本の燃料集合体には約一七二キロのウランが含まれていますから、一〜三号機の原子炉だけでも約二五七トンのウランを回収しなければなりません。格納容器の蓋から底までの高さは三五メートルもあります。その距離から遠隔操作のクレーンを用いて、溶融し金属と混じった燃料を探し出すのです。
日本が直面している課題を解決するテクノロジーは、まだ存在しません。格納容器へ入り、核燃料を適切に処理するロボットは、まだ設計すらされていないのです。放射線量が高いうえ、核燃料は冷却のために水没させていなければなりません。単純に考えれば、コンクリートと結合した核燃料を引き剝がす水中ロボットが必要となりますが、困難を極めます。
溶融した核燃料は圧力容器と格納容器それぞれの底に張り付いていると思います。すべてが格納容器の床へ届いていればまだ楽なのですが、原子炉にも残っていると考えられます。そのため圧力容器の底よりも高く水位を維持しなければならないわけです。ただ、その水位より低い位置に穴が空いています。それに、圧力容器の内壁に沿って燃料棒が残っているかもしれません。それらを冠水させておくと、建物全体が重すぎて地震に耐えられません。震度六でも倒壊する可能性があります。ギャンブルでもあり、技術的にも複雑な問題です。先に少し触れましたが、耐震性の高い新たな建造物で外から補強せざるを得ないのではないでしょうか。
一〇〇トンのキャスクを動かすだけでなく、一〜三号機では原子炉の蓋を外さなければなりません。定期点検中だった四号機で外してあるのが見える、黄色い蓋です。格納容器の蓋の開閉は、通常ならば人間が行います。手動で外さなければならないボルトで留められているのです。圧力容器の蓋は、さらに厳重に封じられています。[三章より]