まえがき
クローズアップされてきた目の不快感
歳をとると、なんとなく目を開けているのがつらい、疲れる、乾く、ゴロゴロする、痛いなどなど、目の不快感を訴える人が増えてきます。
しかし、眼科に足を運ぶ方はごく一部です。多くの方々は不快感を抱えたまま、あるいはせめてもと市販の目薬をさして、がまんしています。「パソコンの画面の見すぎで目が疲れているのだろう」「若いころはこんなふうではなかった、年のせいに違いない」「オフィスの空気が悪いんじゃないだろうか」――みなさん、口々にこんなふうに言われます。
とはいえ、当然ながら「この不快感が減ったり、なくなったらどんなに楽だろうか!」と、心の中では思っているはずです。
そもそも中高年の慢性的な目の異常や病気は、視力や見え方などの「見る」ことにかかわる視機能異常と、疲れ目や乾きといった「目の快適さ」にかかわる眼不快感との二つに大別することができます。このうち、これまで積極的に研究され、治療が進められてきたのは視機能異常についてでした。眼不快感は専門家の間でも見過ごされていたり、加齢で起こる仕方がない現象として無視されていたりということが多かったのです。しかし、ようやくこの目の不快感の問題が大きな関心を呼ぶようになってきました。
私たちは、常に、見る、聞く、かぐ、触れる、味わうなどして、周囲からの刺激を情報として受け取っていますが、その外界からの刺激の八割を感知しているのは視覚、つまり目の働きによって得ているのです。ですから、視機能に異常があって、ものがよく見えない、視覚情報が十分に得られないというのでは困ります。このため、まずは視機能異常を治そうと考えるわけです。
その一方で、視覚情報を得るために目を使えば使うほど、こんどは目の不快感が気になります。朝から目がゴロゴロしていると不快だし、パソコンの画面も見にくいし、ものごとに集中できません。仕事の能率が落ちるのはもちろん、プライベートの時間にDVDを見ようという気にもなれません。こうして、視覚情報を得ようとするあらゆることがストレスになっていきます。
目の不快感は人間関係にも影響を及ぼします。たとえば、治療によって涙目の症状がなくなると、多くの患者さんが「これで相手の方の目を見て話せるようになります」と喜ばれます。つまり、目の不快感のために、コミュニケーションにも差しさわりがあったというわけです。
このように、目の不快感はQOL(生活の質)に大きく関係しています。そのことから眼不快感を克服するための研究が進み、一般の方にはまだあまり知られていないものの、新たな治療も行われ始めています。今や、視機能異常の治療だけでなく、眼不快感の治療が眼科の医師の間でも大きなテーマとなり、新たな流れとなっているのです。