はじめに
伊藤P。
伊藤隆行は世間でそのように呼ばれています。
Pはプロデューサーの頭文字。つまり僕はテレビ局のプロデューサーであり、テレビ番組をプロデュースしているわけです。日本が誇るあの最下位キー局、あのテレビ東京で。
入社三年目、AD時代の呼び名は「鼻」でした。理由は、鼻が大きいから。「オイ!いい加減鼻の陰から出てこいよ!」とか言われました。周囲の人には常に鼻の陰に隠れているように見えていたのでしょう。そのあとが「ピノ」。もちろんピノキオの「ピノ」。「オイ!嘘うそついて鼻が伸びちゃってるよ!」とか言われました。周囲の人には常に嘘をついているように見えていたのでしょう。それからディレクターになるとただの「伊藤」。「オイっ伊藤!ど〜なってんだ!このバカ!」
そして入社一七年目の現在、なぜか社内でも「伊藤」の下に「P」が付いています。「オイっ伊藤!アッ伊藤P〜あのさ……」そこは言い直さなくて全然いいのに。
「伊藤P」と呼ばれるようになった理由はひとつ。『モヤモヤさまぁ〜ず2』という番組でたまに僕が登場し、そこでさまぁ〜ずの二人が「おっ!伊藤P」と呼ぶからです。その「伊藤P」はプロデューサーのくせにアホなことを言って、スットぼけているようなのです。さまぁ〜ずの二人には「伊藤君」よりは「伊藤P」の方がアホっぽかったのでしょう。ん?ちょっと待てよ……思えばこの本番の直前に、後輩のディレクターに「先輩!今日テレビ出てもらいますんでヨロシクお願いします!」ええ〜昨日言ってくれよ!「まぁ趣旨説明するだけなんでウマイこと頼みます。伊藤P〜」って……名付け親はアイツか!親は後輩か!本番の五分前に急に言われたのでもはやモヤモヤしちゃってます。
思えば僕は、常に「周囲の人」にいろんな呼び方をされてきました。そこに自分の意思がない……。常に他人によって自分が認識され、常に他人から評価されてきました。報道志望で入ったこの会社でも、多くの「周囲の人」の意見によって一度も報道に従事することなく真逆のバラエティ番組のプロデューサーになりました。意味が……分かりません。自分の意思は常に他人が支配している→他人が自分の人生を決めている→他人の意見で生きている→そんな人間が新書を書く→全く意味が→分かりませんよね。
ハッキリ言います。僕は自分がモヤモヤしちゃってるんです。大いなるノンポリ。悪く言えばただの「いい加減」。でもそれでいいと思って生きてきました。何故ならそれは僕にとっては難しい生き方、理想とすべき「仕事術」だったからです。この執筆の話をいただき、いざ本を書くにあたり、まずは自分を見つめ直すことにしました。自分を見つめることなんて人生にそう何度もありません。二〇〇二年に結婚した時くらいかな……だからこの本には何人かの非常に重要な、僕にとってはとても大切な「他人」に登場してもらいました。自分の人生を決めてきた「他人」。その人たちに「伊藤P」のことを勝手に僕の知らない場所で話してもらいました。モヤモヤした自分像をなるべく読者の皆様にハッキリお見せするために。かなり恐怖なので、実際僕もこの本が出版されて初めて読むことにします。ああ……怖っ。怖すぎる。今後、僕の思惑とドンドンずれちゃっている発言が出てくると思いますが、逆にその辺を面白がっていただけたらありがたく思います。さまぁ〜ずの三村さん、大竹さん、テレビ東京の大江アナ、大橋アナ、構成作家の北本かつらさん、そして新入社員当時の上司・近藤さん、この場をお借りして御礼申し上げます。「言いたいこと言っといたから安心していいよ!」的な皆さんの不気味な笑顔が怖くてたまりません。
それでは、株式会社テレビ東京に一七年勤め、いくつかの番組をプロデュースした経験の中から、ザ!中堅サラリーマンの現場の「思い」を書いて参ります。まずはいきなり、唯一のポリシーです。
誰でも自分の中の一%だけは天才です。
だけど、
誰でも自分の中の九九%は完全に凡人です。
この本で僕がお伝えできることは、このことだけです。これをいかに自分の中にしっかり抱けているか。行動できているか。それが必殺!「モヤモヤ仕事術」の全てです。これ、かなり簡単です。でもこれ、ほとんどの人がやっていないと思います。いや、やれないのかもしれません。皆、ちゃんとした人間だから。