三陸沖の海底に起こった巨大な地震の引き起こした津波は、東北から関東にかけての太平洋岸の海沿いの街や村々に、壊滅的な被害をもたらした。津波のエネルギーは莫大であり、数えきれないほどの家屋を押し流し、おびただしい人命を奪い去った。
このときの津波は、福島県の海岸につくられた原子力発電所(東京電力福島第一原子力発電所)にも襲いかかり、電源設備を完全に破壊することによって、原子炉の冷却機能を危機に陥れた。空焚きによって炉心の溶融が起こり、大量の放射性物質が、周辺にまき散らされた。スリーマイル島の事故をはるかに超える規模の、深刻なレベルの原発事故であることは、もはや誰の目にもあきらかである。
この文章が書かれている時点では、福島原発における事態収束の見通しはまったく立っていない。また津波による破壊のあと、東北の人々の生活の立て直しは、遅々として進んでいない。したがってここでおこなわれる考察は、今回の未曾有の出来事の全貌が、いまだにあきらかになっていない状態で進められなければならないという限界を抱えている。
しかし、出来事の推移のいかんにかかわらず、いまの時点でも確実に言うことのできる、ひとつの明白な事実がある。それはこの出来事を境として、日本文明が根底からの転換をとげていかなければならなくなった、という事実である。もとどおりの世界に「復旧」させることなどはとうていできないし、また、してはならないことだ。私たちは否も応もなく、未知の領域に足を踏み入れてしまったのである。