心の声
今の社会では、「自分を表現する」ということが随分と容易になったように思います。たとえばブログやツイッターといったものを通して、自分自身を表現できる可能性が以前よりもかなり増しています。これは素晴らしいことです。けれども、容易になった分、それらが本当に表現したいものとして発せられたものなのかということになると、実際のところ、どこまで意識されているでしょうか。
私は、何かを表現する時に「聞く」という行為は欠かせないものだと思っています。「聞く」と一口に言っても、いくつかあると思うのですが、ひとつには自分自身を聞くこと、また他人の意見を聞くということや外から入ってくる情報を聞くということではないかと考えています。
まず「自分を聞く」ということについて言えば、私自身、音楽を通して自分を表現していますが、自分の音を聞くということをとても大切に考えています。常に自分自身に耳を傾けて、本当に表現したいものはなんなのかということを問いかけていく。つまり、自分の心の中の声を聞くのです。これは音楽に限らず、何かを表現するということに関して言えば、やはりとても大事なことです。
自分の心の声、といっても色々あります。様々な選択肢がある中で自分はどうしたいのか、迷うこともあります。耳を傾けたからといって、すぐに答えが返ってくるとは限りません。たとえば、コンサートのように、日時が決まっていて、その日までにある程度確立されたものを作りたいという気持ちはあるのに、なかなかうまくいかずにイライラしたり、夜も眠れないほど悩んだりすることもあります。締め切りを前にして書けずに苦しむ作家と同じです。
それでも自分の心の中に常に耳を傾けていく、その繰り返しでしか、結局答えは見つからないのだと思っています。表現すべきものは、他の何物でもない、自分自身にあるのですから。