はじめに
二〇一一年三月一一日、大地震と大津波が東京電力・福島第一原子力発電所に致命的な打撃を与えました。深刻な状況は今もなお続いていますが、それゆえに反原発の活動家ではない普通の人たちが「原発についてもっと考えよう、議論しよう」と声をあげはじめました。「今頃になって何を言ってるんだ」と責めるなかれ。あまりにも大きな代償を払うことにはなりましたが、今からでも遅くはありません。
今後「原発」をどうするのかは、日本国民のみならず人類の行方を左右する重大事案。行政府や立法府が勝手に決めることではなく、主権者である私たち一人ひとりが決定権を握るべきです。そのためには、国民投票を実施するのが最良で、徹底した情報公開を進めて議論を重ね、主権者自身が賢明な選択・決定をなさねばなりません。
日本人の「原発」に対する関心は以前に比べて確実に強まりました。とはいえ、強い関心を抱いている人の範囲は限定的で、これまで通り政府や国会に決定権を委ゆだねたままでは、大多数の国民が議論し熟考することは期待できません。でも、国民投票で決着をつけるとなると、自分自身が決定権を握ることになり、原子力発電やエネルギー政策に対する関心・真剣味が格段に増します。それは、かつて新潟県巻町まきまち(現・新潟市)や刈羽村かりわむらあるいは三重県海山町みやまちよう(現・紀北町)で、「原発」やプルサーマルに関する住民投票を実施した際に証明されています。
本書では、国民投票とは何か、選挙や世論調査とはどう違うのかについてわかりやすく解説すると共に、「原発」をテーマとして実施された国内外の国民投票、住民投票の事例に関して詳しく報告します。また、「原発」の今後を選択する国民投票を実施するにはどうすればいいのか、どんなルールを設定すべきなのかについても具体的に説明します。
加えて、第五章では国民投票時の議論、キャンペーン合戦を想定して、学者や政治家、作家、タレントら多様な人々の「原発」「エネルギー政策」に対する考え、主張を多数紹介します。やや難解な解説や説明は苦手だという方は、ビートたけし(北野武)さんの発言に始まるこの第五章から読みはじめてください。
この本によって、多くの主権者の国民投票に対する理解が深まり、その人たちの行動によって質の高い「原発」国民投票が実現されることを願います。