序 文
「韓国の人々はどうして生まれてすぐ一歳になるのか?」
「韓国の人々はどうして年上の人の名前を呼んではいけないのか?」
「韓国の男性はなぜ、お兄さん、と呼ばれるのが好きなのか?」
交換留学生として韓国へ来る外国人学生たちからよく質問を受ける。その外国人学生たちから浴びせられるこのような質問には時々狼狽させられたりするが、同時に興味深いと感じるものが多い。韓国文化研究に必要とされる厳密な理論や方法論も重要ではあるが、すぐに答えが気になるその学生たちにも簡単に読める本が必要であると実感せずにはいられなかった。
この本を出版するにあたり、私の知る外国人学生たちからの質問を収集し、またさらにインターネット上にある質問も集めて六四個の質問を選定した。質問の数にはこだわらず、ただひとつのテーマに偏らないようできるだけ広い範囲で韓国文化と関連する質問を選んだ。
韓国人のアイデンティティー、慣習、儀礼と伝統意識、礼節、対人関係と行動様式、言語と価値観、宗教と民俗、食文化、住居文化、娯楽文化、大衆文化とその他の生活文化に関するものなどだ。また日本で出版するため、日本の文化、習慣との比較や日本人留学生からの質問に答えたものも意識的に入れた。
質問を解き明かしながらたくさん笑い学んだ。韓国の人々にとってはあまりにも当たり前なことであるためこれまで無関心になりがちであったものなどを外国人学生たちは不思議に思い、その答えを知りたがるのだ。「どうしてご飯とおかずを混ぜて食べるんですか?」。ただの一度も疑問を持って見たことがないことを質問されるとき、面食らいもしたが本当に興味深い質問であると感じた。しかし実際に答えようとすると、その答えはやさしくはないのみならずあまり単純な質問ではないという事実に気づくこととなった。私たちは常に良い答えを探すものの実際には質問が良いと答えも良くなるという事実を悟るようになった。
韓国文化人類学会から出版された『見ず知らずの場所で私に会う』という本があるが、この本のタイトルのように、予想もしない質問を受けて真の韓国に出会ったのかもしれない。外国人たちの質問は私たちが発見することのできなかった部分を見つけるきっかけとなり、また違う角度で韓国を見直す機会となった。それゆえ、この本は日本の皆さんなど外国人たちのために答えた本ということばかりではなく、実は韓国人のための本でもあるのだ。
私にとって韓国とは最も重要で魅力的な質問そのものだ。
確かに韓国は驚くべき記録の国である。一九五〇年の朝鮮戦争後、国連によって初めて実施された統計に照らし合わせて見るとわずか五十余年のうちに個人所得、国内総生産などが数百倍も増加し、世界一五位中に入る経済大国となった。とあるエコノミストがこのような韓国の発展は前例もなく、これからもありえない経済発展であると驚嘆するほどである。また韓国は新興国家の中でも珍しく平和的に政権を交代した民主国家であり、よく知られてはいないが国土の七〇パーセントが山岳地帯であることを生かした造林国家として最も成功した国でもある。しかし韓国は世界で数少ない分断国家であり、外国へ移民しようと考える四〇代が最も多い国でもある。経済と社会、歴史と文化を研究する社会科学者たちにとって韓国とは最大のミステリーの国なのである。韓国はどこから来て一体どこに向かっているのであろうか?