奇々怪々の現代
「時こそ最後の審判者である」と鷹揚に構えていると、私たち自身がとんでもない被害を受ける。今このことに、疑問をさし挟む余地はない。私の目には、その日の人類滅亡の姿まで見えるので、一筆とらざるを得ない。人類の思考力がここまで退化するのは、文化人類学的に興味深い現象でもある。
本書とほぼ同じ「二酸化炭素温暖化説はなぜ崩壊したか」という演題で、ここ二年ほど四回の講演会に臨んだ。会場には、おそらく日本で最も深い知恵を働かせ、二酸化炭素(CO2)温暖化論と環境問題に精通した「うるさい性格の人たち」が集まって席を埋めつくし、「こいつは何を話すのだろう」と猜疑に満ちた目を私に向けていた。まったく驚いたことに、このように「反社会的な」演題を掲げて、これだけの人が集まり、それ以上に思いがけぬことに、四時間近く話しても、誰一人席を立たなかった。私はまず一枚の気温グラフを示して、「ここ一〇年、地球の気温はまったく上昇していません。むしろ寒冷化しているのに、なぜ温暖化と騒ぐのですか」と尋ねた。会場は、寂として声がなかった。「大気中のCO2濃度は、中国インドなどの暴走する経済成長によってぐんぐん高まり、今年も最高記録を書き換えていますね。CO2温暖化説が正しいなら、CO2が増えて、なぜ地球は冷えるのですか」
続いて私は、「この会場で、このグラフの気温データを調べている人は手を挙げてください」と問うた。やはり会場は水を打ったように静寂に包まれたまま、誰も手を挙げなかった。すべての会場で、気温を調べている人がいなかった。くり返すが、会場には、日本の中でも、この問題に特に高い関心を抱いている人たちが来場していた。これと同じ質問を、やはりこの問題に関心の高い本書の読者に対して問いたい。そして、温暖化問題について報道を続けてきた新聞記者とテレビ報道関係者に対して、まず疑問を持つ、というところから興味深く問いかけたい。「気温を調べたことがありますか」と。
実は、この日本に生きている九九パーセントの人は、気象庁が公表して、インターネット上で「誰でも調べることができる」気温データを調べたことはない。その九九パーセントの人が、地球はCO2によって温暖化していると鵜呑みにしてきたことがこれで明らかである。この人たちに罪はない。イギリスのBBC放送はじめ、全世界で気温が下がっていると大きく報道されているにもかかわらず、日本の新聞とテレビがまったくこのグラフを出さないからである。日本人に正しく事実を伝えるべき報道関係者が重大な責任を問われる。しかし九九パーセントの人が現在の気温変化を知らないことは、日々の作業に追われて忙しいというだけでは、まったく罪がないとは言えない。ブレーズパスカルが「人間は考える葦である」と語った、人間という生物がとるべき態度ではない。地球温暖化とは、子供にでも分る、しかも面白い科学を論ずる話である。もしCO2温暖化説を主張したいなら、誰もがまず気温を調べてから発言するべきである。「地球を愛する」という言葉がテレビコマーシャルに氾濫しているが、地球を愛するとは、「気温を調べたこともない」企業や子供のたわ言ではなく、流行語でもない。大いなる好奇心を持って、真剣に事実を調べて考え、それなりの骨折りを要することである。