天国への道を知る最良の方法は地獄への道を探究することである
ニッコロマキャベリ
(塩野七生訳)


 この本は、あなたが自分の人生において、どうやってなるべく不幸を避けて、幸福を呼ぶような行動習慣を身につけるかを、さまざまな法則や事例から、一緒に考えていく本です。
 そして、この本があまたある、ほかの「幸せ探しの本」と大きく違うのは、不幸を避ければ幸福になる確率が上がるという考え方に基づいていることです。自分のマイナス面や、自分の運をなくしてしまうような癖について考え直し、不幸になりにくい行動をとり続けることが、結果として幸福につながるという信念を持っていくことです。すなわち、基本的に勝ちを大きくするために、負けを少なくする。これはビジネスで勝つ方法、テニスで勝つ方法、投資で勝つ方法、みんな同じです。
 そうはいっても、私がこのように、読者のみなさんに「どうやったら幸福になれるのか」というような本を書くと言うと、「そう書いている勝間さんは、本当に幸せなんですか?」と疑問を感じるような声が、すぐにでも聞こえてきそうです。はい、確かに41歳にしてすでに離婚を2回経験し、何度も転職をしているような、シングルマザーの私は、一般的な「女としての幸せ」という基準から見ると、きっと、100点満点でせいぜい40点、典型的な幸せな女、とは言えないかもしれません。実際、私も30歳を過ぎたころに、過労によるストレスでメニエール病や十二指腸潰瘍を患ったり、そのストレス解消で毎日、毎日、ワインを飲んでは喫煙をして、激太りをした生活を送っていた時期もあります。そのときは正直、自殺も考えるほど、不幸でした。だからこそ、そこで自分を見つめ直し、生活を見つめ直し、何が原因かを考えて、ようやくそこから一歩一歩立ち直った身としては、そのときに発見し、ずっと考えていたことを、みなさんと共有していきたいのです。そして、私自身は今、胸を張って、「自分が幸せ」と言い切ることができます。
 この10年間で、たとえば私が大きく発見したことは、「幸福を他人と比較して考える」というその視点が、そもそもおかしいということです。当時は、結婚していて子どもにも恵まれ、著名な会社での立派な仕事もあり、何でも持っているね、と言われていました。それでも、そのころは自分の基準で、大変不幸でした。今は、そのころに比べると、自分で自分の幸せを定義し、他人の幸せ感とはまったくかけ離れた生活をしていても、とても、とても幸福なのです。
 この変化は、自然に「棚ぼた」を待っていたからそうなったのではなく、自分の不幸の源と真剣に向き合い、古今東西のさまざまな自己啓発書を読み、ビジネスの手法を使って分析し、フレームワークを作り、一つ一つ、できること、できないことを区分けして、作り上げたものだと考えています。
 私のこのような経験と、そして、私はコンサルタントですから、自分だけではなく、周りのさまざまな人がどのような考え方、行動パターンを持っていると不幸になりやすく、どのような習慣があると幸福になるのかを明文化して、コトバとして共有する形にしたいのです。そして、この本が一人でも多くの「どうやったら、不幸から抜けられるか」と悩んでいる方のヒントになればと思って、コツコツと書き下ろしました。
 中世、イタリアの政治思想家マキャベリが残した「天国への道を知る最良の方法は地獄への道を探究することである」(塩野七生訳)という言葉があります。
 まずい国家の統治とはどんなものなのかを徹底的に分析し、そのまずさの原因を知ることを通して、よりよい国家運営が可能になる、と塩野七生さんはこの言葉を使って、政治家たちに警鐘を鳴らしています。
 このことは、よりよい国家の運営についてだけ言えるのではなく、個人の人生の戦略についても、まったく同じことが実はあてはまるのです。幸せをつかむ生き方とはすなわち、地獄に進む道、不幸になってしまう生き方をとことん知ること、そしてそれを避けることなのです。これが、私がこの15年間、幸福と不幸を分けるものについて考え続けた、最大の発見であり、気づきでした。
 しかも、このような不幸な生き方というのは、無意識な習慣のなかに潜んでしまっています。不幸な人は、自ら不幸になるように、毎日行動を繰り返しているのです。この本は、不幸せな生き方が身にしみついてしまっている人が、これから説明する総論や、7つの法則による各論を知ることで、「ああ、自分の不幸はここが理由だったのか」と気づいてくれることをめざしています。すなわち、不幸な生き方に対する処方箋です。
 これは30歳ころの私が、とにかく、さんざん、痛い思いをして、学んできたことです。自分が不幸な人生だと感じることは、会社や親や社会が作ったのではなく、自分自身の不幸な生き方、考え方、行動習慣、言葉、すなわち、日常生活の一つ一つが、自分の不幸を作っているのです。実は、この現実に向き合うことができれば、問題の70%は解決したと考えています。
 大事なことなので何度も繰り返しますが、幸福になる方法とは、とりもなおさず不幸になる生き方が何かを知り、そういう生き方にならないために、日常生活のふだんの行動や考え方において、無意識にでもそういうことを避け、逆にしなければならないことをしっかりマスターすることなのです。それができるようになれば、日常生活のなかで通常通りにふるまっているだけで、不幸の確率が減り、結果として、幸福のほうが向こうからやってくるのです。