楽観論がいっぱいだが……
「世界不況は底を打ったのではないか」という声がそこかしこから聞こえてくる。
二〇〇九年八月二一日、アメリカFRB(連邦準備制度理事会)のベンバーナンキ議長は、ワイオミング州で開かれたカンザスシティ連邦準備銀行の経済シンポジウムで、「景気後退は終局を迎えている」と発言した。
目を転じて、深刻な景気後退に直面していた日本。二〇〇九年八月にやっとのことで日経平均株価は一万円台を回復し、さらに、同年四〜六月、七〜九月の四半期ベースのGDP(国内総生産)が年率換算で各々プラスの二七%、一三%となった。これは、5四半期ぶり、つまり〇八年初めの水準に戻ったということだ。ヨーロッパでも、景気が戻ってきたという話がしきりに聞かれるようになった。
これらの推移を見る限り、多くの人々が「最悪期を脱した」と胸をなでおろすのも当然だ。
二〇〇八年初めといえば、〇七年夏ごろの金融危機に始まる世界的な不況の波が、日本にもじわりと押し寄せてきたころで、そこから日本はマイナス成長へ、そして、〇八年秋のリーマンブラザーズ破綻を契機に急降下に転じたのである。この間、〇七年までの好景気がうそのように、輸出関連産業を中心に容赦ない人員削減や賃金削減が拡がった。
喉もと過ぎれば熱さ忘れる。二〇〇八年から〇九年前半までの閉塞感や脱力感を忘れたかのように、大方の人々は、景気が底を打ったと見ている。
だが、日本経済は本当に元気を取り戻すことができたのだろうか。
実のところ、アメリカの経済政策担当者は「不況を完全に脱した」とは見ていない。ニューヨーク株式市場でダウ平均株価が一万ドルに戻ったといっても、二〇〇八年五月時点で一万三〇〇〇ドル弱の水準にあったことを思えば、まだ隔世の感をぬぐえない。さらに、世界経済を支える中国の資産バブルの崩壊を心配する向きも多い。
だとすれば、人々の「底を打った」という見方は、二〇〇八年秋のリーマンショック後の未曾有の世界危機という、最悪の事態から脱出できたということにすぎないのではないか。言い方を換えれば、日本経済も世界経済も実のところ、〇七年夏ごろからの世界的不況を完全に乗り越える「実力」を備えるには、まだ至っていないのではないだろうか。
現在もつづく世界同時不況の来し方、現状そして行く末を、しっかり見据える必要がありそうだ。
では、世界経済の実相を見るうえで、最も象徴的だと思えた出来事から追っていこう。