喫煙歴二五年、やめる気なし
奥仲 太田さんは自他ともに認めるヘビースモーカーですね。対談を始める前に、太田さんの主治医として、また呼吸器専門の医師として確認しておきますが、現時点でタバコをやめるつもりはありますか?
太田 まったくありませんね。
奥仲 今まで禁煙にトライしたり、やめようと考えたこともないんですか?
太田 一度もないですねえ。
奥仲 一日二○本吸うと、一年でタールが牛乳瓶一本分肺にたまる計算になるんだぞと言っても、それがなにか問題でも? という感じでしょうか。
太田 う〜ん(笑)。でも、なんと言われようと、現時点ではやめる気はないんです。禁煙で苦しんでいる人はいっぱいいるけど、僕はやめようと思えばたぶん簡単にやめられると思ってるんです。禁煙しようと思ったら、自分の意志の力ですっぱりやめられる。そう思うから吸っているのかもしれませんけど。
奥仲 これはかなり手強い(笑)。まあ太田さんの意志が固い分、こちらもバトルしがいがあろうというものです。医者の使命として、これから喫煙者にとっては怖い話をたくさんしていきますので、覚悟してください。
太田 はい、どうぞ。
奥仲 個人的な問診を始める前に、ちょっと余談を。先日たまたま見つけたんですが、タバコ問題首都圏協議会というNPOが、『「タバコやめてネ」コンテスト』というのを毎年やっているんですね。タバコをやめてほしい有名人を投票で決めるんですが、二○○七年度のコンテストで、太田さんは一三位に入っていましたよ。寸評で、太田さんは『タバコをやめて「禁煙ネタ」でやってもらいたい』って書いてあります。
太田 そうなんですか。へえ〜、禁煙ネタねえ。で、一位は誰なんですか。
奥仲 一位が和田アキ子さん、二位が明石家さんまさん、三位がアニメ監督の宮崎駿さん。宮崎さんはテレビでも吸っているシーンをよく見ますからね。四位が木村拓哉さんで、五位がオダギリジョーさん。そして六位が加護(亜依)さん。
太田 加護ちゃんも入ってるんだ(笑)。
奥仲 禁煙しようという方は、やっぱり自分の健康に危機感を持っておられるんだと思うんです。最近では、吉田拓郎さんや柴田恭兵さん、忌野清志郎さんとか、喫煙歴の長い芸能人の方のがん告白が話題になっていますが、そういう話を聞いても、太田さんは、これはまずい、やめようかなという気にはならないですか。
太田 ならないですね。だって、僕らRCサクセションを聞いていた世代ですけど、忌野清志郎はタバコを吸っている方がずっと魅力的ですよ。今はやめているのかもしれませんけど。
奥仲 肺がんの原因がすべてタバコというわけではありませんが、肺がんの中の扁平上皮がんという気管支の太いところにできるがんは、タバコを吸ってない人はまずなりません。この病気は完璧にタバコのリスクによって発病します。まあタバコの病気に関してはあとで詳しく触れていくことにして、では、太田さんの喫煙歴からお伺いしましょうか。初めて吸われたのは何歳のときですか?
太田 一七歳。高校二年くらいのときに、遊び半分で友達と一緒に吸い始めました。
奥仲 常習的に吸い始めたのは?
太田 もうそのころからですね。一七、八歳から、かなり常習的に吸ってます。
奥仲 高校生でもう一日一箱くらいは吸っていましたか?
太田 そのくらいは吸っていましたね。
奥仲 すると、太田さんは昭和四○年生まれですから、二五年くらい常習的に吸っている計算になりますね。今は一日に何本くらいお吸いですか。
太田 いやあ、多いときは二箱くらいは吸ってしまいますね。原稿書いているときなんか、ついついいっぱい吸っちゃいます。ちょっと書いて文章を眺めながら、タバコに火をつけて考える。そんな感じですかね。
奥仲 一日に吸うタバコの本数×年数。これは「ブリンクマン指数」といって、喫煙者ががんにかかる危険度数を表します。この指数が四○○を超えると危険ゾーンに入り、八○○を超えると極めて危険なゾーンに突入していることになります。太田さんの場合、四○本×二五年ですから、一○○○です。がんになる可能性が極めて高い。このくらいの数値が出る方は、だいたいなにか身体に異常が出てくるんですが、自覚症状としてはあまりなさそうですね。
太田 とりあえず今のところ体調は悪くないですね。猫背だから肩が凝るでしょうとよく言われるんですけど、僕は肩凝りとか、腰痛とか経験したことなくて。
奥仲 いやー、それはうらやましい。私は今対談中もよい姿勢で座っていますが、これは腰が痛いからなんです。ちゃんとした姿勢を保っておかないと、明日診療や手術ができなくなる。医者の不養生と言われないように、健康管理にはかなり気を使っているほうですが、腰が痛いのだけはどうにもならないですね。夜も三○分以上ストレッチをやってから寝るんですが、そうしないと身体が持ちません。

 仕事が楽しく、ストレス皆無
太田 僕は常に姿勢が悪いんです。原稿を書くときも、番組をやっているときも、こんなダラッとした格好でいるから、肩が凝らないんだと思います。常にリラックスしているというか、キチッとした姿勢で、じっとしていなきゃならない状況がないんです。
 気分でウワーッとやったり、唐突に歌いだしたりとか、思ったとおりに行動していて、それを抑えるってことがない。普通の人は、そういう態度は許されないんでしょうね。僕はそれが許されるところで仕事をしているから、身体的にも精神的にもストレスがないんです。仕事がつらいと思ったこともないです。
奥仲 今のお話を聞いてよくわかりました。肩凝りがあったり、腰が痛くなるのは、緊張するからなんですね。太田さんは姿勢は悪いけど、肩がストンと落ちていて、無駄な力が入ってない。だから肩凝りもないんでしょう。私なんかは、いつも姿勢をピシッとしていなければならないので、肩が凝ってしまうのかもしれません。でも、心身ともにストレスがないと言い切れるのはすごいですね。
太田 いや、やっぱり先生が僕みたいな態度で患者さんに接することはできないでしょう。僕は誰とも平気でこの態度でやってますから、ちょっと特殊だと思いますよ。
 それに僕らの仕事って、遊びが仕事ですから、常に遊んでいるようなもんです。ばか話をするのが仕事だなんて、ほかにないでしょう。普通の人にはばか話がストレス解消になるわけですから。僕らは一日遊んでいればいいという仕事なので、緊張してストレスを感じることはないんです。
 ただ、周りはストレスかもしれない(笑)。僕なんかは三○分番組でも二時間半くらいカメラを回すんです。なぜかというと、僕の話が止まらないから。スタッフも、番組を一緒にやっている連中もだんだん疲れてきて、お客までもういい加減にしてくれって感じになる。それでしょうがないからやめるんですが、その間は楽しくて楽しくてしょうがない。むしろ仕事が終わっちゃうのが寂しいくらいなんですよ。
奥仲 そうですか。そのストレスのなさを裏づけるようなデータがここにあります。ここで、毎年受けていただいている人間ドックで、今年の太田さんの肺に関する成績を発表したいと思います。呼吸機能と胸部CTと喀痰細胞診という三つの検査から、太田さんの肺の状態を評価しました。これだけタバコを吸っている方だから、絶対なにかひっかかってくるはずだと思ったんですが……残念ながら異常なし。
太田 ほう! なにも出ませんでしたか。先生、残念そうですね(笑)。