旅の楽しみといえば?
 仕事柄とはいえ、国内外を問わず、いろいろなところを見て回るのが私の性分だ。地域の問題を研究している手前、行政機関のヒアリングだけでは表面的な情報しか入らないことも多く、現場に入り、現場の雰囲気を肌で感じようとついつい寄り道をしがちだ。
 風光明媚な観光地、歴史と文化の匂いがする古い街並み、これらもとても魅力的ではあるが、それよりもむしろそこに住んでいる人々の息遣いが感じられるような飲食店街に惹かれてしまう。国や地域によって好まれる食べ物はまちまちだ。食は文化なりともいわれるが、その土地で長く営業を続けている飲食店を訪ねれば、地域で愛されているローカルフード、あるいはソウルフードともいえる逸品に出会えるかもしれないのだ。
 そんな出会いも、行き当たりばったりではなかなか目指す逸品には巡り合えない。やはり事前の準備は不可欠だ。以前はガイドブックや口コミなどが中心だったが、最近ではインターネット上のブログやホームページ(以下、HPと記述)にローカルフードの情報があふれている。そんな情報を頼りに仕事の合間にちょっと寄り道して、その土地でしか食べられないようなメニューに舌鼓を打つのはまさに至福の時だ。

 B級グルメの台頭?
 以前からローカルフードという言葉になんとなく愛着を持っていたが、日本語にすれば「郷土料理」になるのだろう。『広辞苑』では、「ある地域の生活の中で、作り食べ伝承されてきた、その土地特有の料理。ふるさと料理」と定義されているが、郷土料理という言葉の響きには伝統や古めかしさがやや強いように感じられる。
 それよりも、あえてカタカナ言葉でローカルフードと呼んだほうが、本書で触れるようなカツ丼やカレー、焼きそばなどには似つかわしいかもしれない。
 そして、最近ではB級グルメという言葉が頻繁に使われるようになってきた。もともと映画ではB級映画やB級ホラーというような、A級(高級)ではない独特のジャンルが確立していたが、食の分野でもいつしかB級という言葉が使われるようになったのである。B級グルメといった場合、値段は安めでその割には結構美味な、庶民的な食べ物を指すのが一般的だろう。

 壁に突き当たった地域振興策
 仕事で全国各地を回っていると、地方の問題が山積していることにいやというほど気付かされる。地方のほとんどの地域で人口は減り始めている。増加しているのはごく一部で、増えているといってもその大半は外国人という地域すらある。公共交通機関の多くはガラガラで、乗っているのは通学の高校生か病院通いのお年寄りばかりだ。
 格差の問題は地方では特に深刻だ。郊外型の大規模ショッピングセンターに客を取られ、多くの商店街はシャッター通りと化して青息吐息だ。景気が上向いているのは東京や名古屋など大都市部で、地方では失業率は高止まりし、有効求人倍率も低迷しているのが現実だ。
 これまで地方を元気にするために、様々な地域振興策が、国や地方自治体などによって講じられてきた。それなりに成功したものもないわけではないが、企業誘致一つとっても、経済のグローバル化とともに生産拠点の工場を海外に移転する企業が増え、国内に新規展開を図る企業は減っている。そのため、ちいさなパイを巡って全国各地の地方自治体が分捕り合うという消耗戦の様相を呈している。
 観光についても状況は同様だ。全国各地に建設されたテーマパークは次々と閉園に追い込まれている。地域に縁が乏しく、思いつきで計画されたとしか考えられないようなテーマパークは一度行けば十分と感じる人が大半だろう。
 そんななかで、食をキーワードにしたまちづくりがブームの兆しを見せている。人を地域に呼び込むために食べ物は不可欠の材料だ。それもまさにB級グルメともいうべきヒット商品が全国各地で生まれつつある。
 本書では、全国各地のローカルフードを紹介し、どのような特徴があるかを明らかにするとともに、ローカルフードを生かしてどうすれば地域が元気になれるか、その方策を探ってみたいと思う。