時間とは何だろうか――。

 こんなことを考えなくても、時計に示された時刻を見ながら、私たちは特に問題なく日々の生活を送ることができる。日常会話では、しばしば時間が話題となるが、時間について深く考えたことがなくても、その会話は何の問題もなく成立している。
 とはいえ、多くの人たちが、時間の不思議な特徴に気づいている。
 たとえば、同じ長さの時間なのに、それを短く感じたり、長く感じたりする。子供のころの1年と、大人になってからの1年とでは、ずいぶんと長さが違って感じられる。友人たちと過ごす楽しい時間はあっという間に流れ、その時間が過ぎてしまうことが惜しい気さえするのに、退屈な会議はなかなか終わってくれない。
 このように、時計で測られる時間が一定でも、感じられる時間の長さが異なるケースは、数多くあるはずだ。

 物理的には同じ時間が経過しているのに、感じられる時間の長さが異なるのはなぜか――。

 本書は、こうした素朴な疑問に答えることを、目的の一つにしている。
 感じられる時間の長さに影響を及ぼすのは、年齢や、そのときに感じている楽しさ、退屈さだけではない。実は同じ長さの時間でも、その時間をどう過ごすかによって、感じられる時間の長さは変わってしまうのだ。