長続きしない健康的な習慣
 あなたは十分に運動をしているだろうか。「わたしは運動している」と胸を張って答えられる人もいるかもしれないが、大部分の人はそうではないようだ。最近の厚生労働省の調査では六○パーセント以上の人たちは、自分が運動不足だと感じている。
 もちろん、若いときから運動をしており、いまも続けている人もいる。わたしも身近にそういう人を知っていて頭が下がるが、やはり特別な人だという気がする。
 現実には、若いうちには熱心に運動をしていたが、いまは遠ざかっているという人も多い。就職したり、育児がはじまり、忙しくてそれどころではなくなり、運動の習慣はいつの間にかなくなってしまった人も多いに違いない。
 それでは、以下の項目で、あなたに当てはまるものをチェックしてほしい。

 (1)週に一回から二回以上、定期的に運動している
 (2)毎朝、朝食をとっている
 (3)間食はほとんどしない
 (4)タバコは吸わない
 (5)一日平均七〜八時間の睡眠をとっている
 (6)自分の体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割ったBMI(Body Mass Index)値が一八・五以上二五未満
 (7)週二日の休肝日を守っている

 これらは大切だと知ってはいても、実際にはなかなかできないことではないだろうか。しかし、この七つの項目はわたしたちが思っている以上に健康に影響する重要なものだ。
 この質問は実は、「七つの健康習慣」について尋ねている。七つの健康習慣とは、アメリカのブレスロー博士が挙げた次の七つの習慣で、健康習慣としてもっともよく知られたものだ。
 (1)定期的運動
 (2)朝食摂取
 (3)間食をしない
 (4)禁煙
 (5)十分な睡眠
 (6)適正な体重
 (7)適量の飲酒あるいは酒を飲まない
 ブレスロー博士らが約七○○○人を約一○年間、追跡調査した結果、ほかの条件がまったく同じでも、これらの健康習慣を維持している人は罹患率が低い、つまり病気に罹りにくいことが明らかになった。さらには、あらゆる原因の死亡率も低いことが知られている。七つの習慣をもつ人は全般的に健康が維持され、長生きなのだ。
 喫煙はなかなかやめられない習慣だ。年齢が高くなると徐々にやめる人の割合が増える傾向にあるが、しかし先進諸国のなかでは、わが国の成人男性の喫煙率はかなり高い。また、最近の傾向として、若い女性の喫煙率が上昇傾向をみせている。
 喫煙の習慣は、ニコチンという習慣性の物質によってもたらされているから、やめるためにはニコチンパッチや行動療法など、ニコチンの作用を考慮した方法が効果的だ。飲酒もまた、アルコールが習慣性をもっているので、やはり同じように習慣性の物質への対応が必要になる。
 では、ほかの習慣はどうか。食習慣や睡眠習慣には、習慣性の物質がかかわっているわけではないのに、健康習慣を続けるのは難しい。食習慣を考えても、健康によい習慣を続けられず、結果的に肥満傾向にある人は多い。
 いま、メタボリックシンドロームの基準の一つである腹囲八五センチメートルを超えている男性(女性の基準は九○センチメートル)、あるいは、もう少しで超えそうだという男性はかなり多い。アメリカ人に見受けられるような極端な肥満の人は少ないとしても、肥満は増えている。もちろん肥満は、依存性のある物質のせいではない。
 食習慣に限らず、七つの健康習慣は、だれが考えても健康によいとわかる習慣なのだが、なかなか身につけることができないものばかりだ。
 そこで紹介したいのが、健康心理学である。健康心理学は、心理学の知識を生かして健康を実現することをめざす領域であり、さまざまな病気や事故などを予防し、健康で幸福な状態(ウェルビーイング)を実現することを目的としている。
 ところが残念ながら、現在は、その健康心理学が明らかにしてきた正しい知識と効果的な方法を知っている人、伝える人が少ない。健康心理学の成果が一般の方々に知られているとはいえない状況だ。
 本書は健康心理学のなかでも、すぐにみなさんの役に立つ知識と方法を紹介する。読み終わったそのときから、健康のための習慣へ第一歩を踏み出すことができるよう、健康心理学の成果をわかりやすくお伝えするものである。その一歩が、あなたの健康な人生へと着実に向かっていくことは間違いない。