古武術の影響と恩恵を大きく受けてきた私が、稽古を通して教えられたこと、感じたことなどを書き表すことで、一般の方々の理解が進むかもしれないと思った。本書は、私の手裏剣術の師であり、自称一般人の体術研究家・辻本光男氏の話を軸に、「普通の人にできる武術」という観点で書いた。もちろん、身体感覚、意識のもちようなどについては、微妙な部分が大切であるため、かなり詳細に記した。また、古武術的な見方で、私自身が日頃考えていることなども綴っている。
「自意識過剰」などというが、私はいわば「当事者意識過剰」な人間だ。何でも我がことと考え、やってみたくなる。剣豪小説を書いているうちに、柳生十兵衛でもないのに柳生新陰流を習い、忍者でもないのに手裏剣術に熱中してしまった。稀有な武技を披露してくださる甲野先生や辻本氏のお話も、完全に他人事としては聞かなかった。おこがましく恥ずかしいが、何でも味わい、理解したかった。だから、すべてが我が身に迫る経験であり、私の身体や心は絶えず変化してきた。稽古の過程は驚きと発見の連続で、いかなる娯楽よりも面白かったといえる。この実感を、できる限り筆を尽くして明かしたつもりだ。
本書を読まれた方が、何か一つでも「自分のこと」と感じていただけたら嬉しい。私は小柄で非力な上、苦行は大嫌いな文化系人間だ。肩凝りや腰痛を抱えている人、武術なんて怖いと思う人、自分に自信がもてない人……そんな方々は、私にとって至極、近しい存在なのである。ぜひ、この本を、身体と気持ちをほぐす一助にしていただきたい。