これまで運や偶然について書かれた本は決して少なくありません。それらの多くは「いかにして幸運をつかむか」という内容で、そのためにすべきことがいろいろと書かれています。きちんと自分の身を律して生きるべきだとか、努力しなさいとか、秘密の法則を教えますとか、祈りなさいとか、まさに千差万別です。しかしながら、よく考えてみましょう、問題は「いかにして幸運をつかむか」ということよりも、まず、「運や偶然の仕組みはいったいどうなっているのか」という疑問を解くことではないでしょうか。

 西洋では、古代ギリシア・ローマの因果論的説明に加えて、一六世紀あたりから「偶然」を予想したいという風潮が起こり、一七世紀以降の確率論の展開へと結びついていきました。東洋でも、釈迦の入滅を機に、物事がいかにして起こり、いかにして他の物事の原因となっていったのかを主題とする考え方が生まれ、それが後になって淘汰され、さらに大きな因果性の枠組みで捉えられないかという発想も生まれてきました。いつかすべては明らかになるのでしょうか。それとも、未来に起こることは永遠にわからないままなのでしょうか。

 自分の力だけでうまくいくことなど、この世にそうたくさんはありません。そんなときにこそ、偶然か必然かという根源的な問いかけが生まれるのです。

 最初に、まず「未来が見えないとき、いったいどうしたらいいのか」と問題提起しておきましょう。もちろん解答はひとつではありません。あなたがおかれた状況次第で、それぞれへの対応はおのずから違ってくるはずです。では、これから、いくつかのケーススタディをもとに考えていきたいと思います。