プロローグ 自分の最後は、自分でまもるしかない
■元気なうちに、「最悪の事態」に備えよう
あなたは、自分の死後の後始末について考えたことがあるだろうか? つまり、誰があなたの葬儀をとりしきり、誰があなたの財産を手に入れるかといったことだ。
こう聞くと、中には「縁起でもない」と怒り出したり、「家族がなんとかするはずだから、自分には関係ない」などと、無関心を決め込む人もいるかもしれない。
それでは質問を変えて、もしあなたが年をとってボケてしまったり、病気やけがのために寝たきり状態になったとしたらどうだろうか。まさか自分はそんな目にあわないと思っても、未来のことはわからない。まだ若いから大丈夫と思っていても、最近は若年性の認知症が注目されているし、突然、交通事故にあってしまうかもしれない。年齢に関係なく、誰にでもそのような状況に置かれる可能性はあるのだ。
将来、自分が年をとって直面するかもしれないさまざまな事態を想像すると、漠然とした不安を感じざるをえない。しかし、日頃の忙しさにかまけてなんの対策もとらずにいたり、「そのときはそのときで、なんとかなるさ」とわけもなく楽観して、そのままやりすごしている人も多いはずだ。あなたもまた、その一人ではないだろうか。
自分に万一のことがあったときに、家族に迷惑をかけたり、この世に悔いをのこしたりすることなく、スマートにあの世に旅立ちたい。あるいは、判断能力が低下したり寝たきり状態になったとしても、みじめな思いをすることなく、まわりから最善の取り扱いを受けられるようにしたい。
もし、あなたが少しでもそのように願うのなら、本書はきっと役に立つだろう。この本には、あなたがそんな目にあったときでも自分自身や家族の生活をまもり、自分の希望を最大限にかなえるための具体的な方法がいくつか書かれている。その中から、きっとあなたにぴったりの方法がみつかるはずだ。
「生、老、病、死」――人が生きていくうえで、老いと病気、そして死を避けることはできない。しかしあらかじめ手を打っておけば、いざそうなったときに自分や家族が受けるダメージを最小限に抑えることができる。そして、それはいま、あなたが元気だからこそできることなのだ。
■「遺言書+生前三点セット」で万全の態勢を
このように、自分の死後や老後をまもるための方法はいろいろある。目的別にまとめると、
●死後のトラブルを防ぐ……遺言書
●高齢期のトラブルを防ぐ……財産管理等の委任契約書、任意後見契約書、尊厳死の宣言書
――便宜上、この三つの書類を「生前三点セット」と呼ぶことにする(もちろん、尊厳死を認めないという人もいるだろうから、その場合「生前二点セット」として読んでいただきたい)。
となる。くわしくは後述するが、もしあなたが遺言書をつくろうと考えていて、ある程度の年齢になっているのなら、まとめて「遺言書+生前三点セット」をつくるようにおすすめする。死後のことだけでなく老後の生活についても万全の備えをすることで、将来の不安がぐんと軽くなるだろう。また、これらはいずれも公正証書にする必要性が高く、準備すべき書類も共通するものがあるため、一緒につくれば手間がかからないというメリットもある。
■心身ともに余裕のあるうちに備えることが大切
近年、ますます高齢化が進み、「余生」が長くなったのはけっこうなことだが、その分、病気や高齢により心身の自由がきかなくなる時間も長くなる傾向がある。もし、あなたが人生の最終章を不本意な状態で終えるのではなく、最後まで自分らしく生き、周囲に迷惑をかけずにこの世に別れを告げたいと願うのなら、ぜひ、いまのうちにこれらの方法を活用して備えていただきたい。
「遺言書なんておおげさな」とか、「そんなことは、もっと年をとってからやればいい」と思っている人も、心身ともにまだエネルギーがあるうちにやっておかないと、いざというときに間に合わず、後悔することになりかねない。多少の手間や費用はかかっても、いまのうちに将来に備えておくことが、いつかあなた自身を助けるとともに大切な家族をまもることにもなる。そのとき、必ずや家族はあなたに感謝することだろう。