青春と読書「本を読む」
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『安倍官邸と新聞「二極化する報道」の危機』徳山喜雄
客観報道はどこへ行ったのか 池上彰

『安倍官邸と新聞「二極化する報道」の危機』徳山喜雄

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 私が大学生の頃だから、いまから四〇年ほど前のこと。「日本の新聞は個性がなく、どれを読んでも同じ」という批判がしきりに聞かれました。それを考えれば、最近の新聞ごとの個性の違いは大きな変化です。
 憲法の解釈を変更して集団的自衛権の行使容認に踏み切った安倍内閣を絶賛する読売新聞と産経新聞。「戦争への道」として強く批判する朝日新聞と毎日新聞、東京新聞。どちらかといえば中立的な立場をとる日本経済新聞。各新聞の立ち位置は明確です。もう「どれを読んでも同じ」という批判は当たりません。
 ようやく個性が出てきた。これはこれで望ましいことなのでしょうが、特定秘密保護法案にしても原発再稼働にしても、日本の新聞界の二極化現象は顕著です。
 以前でしたら、社説はそれぞれ違いがあっても、政治面や社会面など、記事本体は、同じような客観報道でした。ところが最近は、新聞記事そのものまで、伝えるトーンが二極分化しています。客観報道はどこへ行ったのか、と言いたくなるような記事が、各社紙面に目立ちます。
 こうした対立構造を巧みに利用しているのが、安倍政権です。過去の歴代首相は、官邸記者クラブの強い圧力によって、特定のメディアからの単独インタビューの要請には応じなかったのですが、いまや首相の側が選んだメディアに対し、都合のいいタイミングで単独インタビューを許しています。
 その結果、各紙が安倍首相の単独インタビューを実現しようと懸命です。安倍政権のメディア戦略に乗せられていることは、各紙わかっていても、「首相単独インタビュー」は魅力的。「わかっちゃいるけどやめられない」。
 こんな危機的状況を、各紙の記事や社説から丁寧に読み解いているのが、この本。著者は朝日新聞の記事審査室幹事だけあって、目配りが利いています。朝日の反応の鈍さを嘆く指摘もあり、自社への愛情を感じさせます。

青春と読書「本を読む」
2014年「青春と読書」9月号より

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