集英社新書
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集英社新書『アウトサイダーの幸福論』刊行記念
ロバート・ハリス氏トークショー  

人に判断を委ねない。
自分の行く道を決める。
それがアウトサイダーの姿勢

『アウトサイダーの幸福論』
ロバート・ハリス

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当日の模様 僕がアウトサイダーになった理由

 なぜ僕はアウトサイダーになったのか。その理由のひとつは、大好きだったアメリカン・ニューシネマの影響です。それらの映画に出てくるヒーローは、ほとんどがアウトサイダーでした。

 特に心に刺さったのが、大学に入るため渡米した最初の日、封切られた『イージー・ライダー』。ドラッグを売ることでいい思いはするけれど、やがて痛い目にあう内容は、自分の理想を売ってはいけないという戒めのメッセージを含んでいます。でも若かった僕はその主張には気がつかず、ただバイクに乗って好き放題やっている男たちの格好よさに魅せられました。強い感銘を受けたあまり、映画館を出ると、靴を捨てて、ヘッドバンドを買い、それから何年かヒッピーになったほどです。

 そして旅も、アウトサイダーの意識を磨いてくれました。

 満員電車に揺られたくない。嫌なやつにこびへつらいたくない。やりたくないことが決まっていた僕は、サラリーマン勤めは無理だろうと自覚していました。だからまずは旅に出て、運がよければその経験を活かして作家になろうとしたのです。

 大学を卒業してすぐ、神戸から貨物船に乗って一路シンガポールへ。しかし、その旅の途中で鬱になってしまいました。そこでヒッピーの友達に薦められて向かったのがバリ島です。当時のバリ島はヒッピーばかりがうろうろしていて、「ピース、ピース」と挨拶すればすぐ友達になれるような環境でした。

 着いてすぐに見た、民族舞踏のケチャは忘れられません。観光客用ではないワイルドなケチャからは、すさまじいエネルギーが発散されていました。参加する人たちが、ひとつの神話であり、物語であり、パッションを共有していた。それに対して、自分のような旅人が抱えているのは個々の物語に過ぎません。アウトサイダーはこうした民族の一員にはなれないし、一生孤独を抱えて生きていくんだなと一抹の寂しさを感じました。

本もまた人生の師匠(グル)である

 本もまた、人生の師匠(グル)でした。全ての始まりは少年の頃、親父の図書室でふと手にしたジャック・ケルアックの『ダルマ行者たち』です。その本に感化された僕は、ビート文学を読みあさりました。

 ヘンリー・ミラーも、心を持っていかれた作家の一人です。日本語に訳すと少し難しい文体ですが、英語で読むと非常に面白い。ダライ・ラマについて書いてあるかと思えば、娼婦を抱いた話も書いてある。私生活もめちゃくちゃで、何でもありの人です。ボヘミアンな人間に憧れていた僕は、強い影響を受けました。

 形にはまった堅苦しい人より、クレージーな人が僕は好きです。詩人だったらランボー。哲学者ならニーチェ。書いてあることは二割ぐらいしか理解してないと思うけれど、読んでいて昂ぶるものがあります。

 人生って、少しクレージーになっていいと思うんです。若い頃、自分がおかしくなってしまいそうな恋や冒険をした方が、人間は成長します。そこで痛みを味わったからもうやらないとは考えず、心をオープンにする。そうやってさまざまな経験に身を投じて初めて、心の柔軟性を獲得できます。

 もちろん時間はかかります。最近のベストセラー・ランキングは、ビジネス書や自己啓発書のような、今すぐに役に立つ本であふれている。でも僕は即効性がなくてもいいから、古典や現代古典といった文学、世界の事象について記された本をあれこれ読むのがいいと思います。

 世界で起きた出来事や文化は人間の大切な遺産です。そうした財産を自分の中に取り入れていくと、やがて「人間って何なのだろう」という探求心が育まれていく。本を読んで知的好奇心を養うこと、教養を身につけることは、何よりも大切です。

 僕は旅立つ前、赴く国の小説――できることなら現代作家の小説を一冊でも読んでから出かけるようにしています。そうすると市井の人々が、日々どんな問題に面しているか、どのような夢を持って生きているか、よく分かるからです。

 同時に、われわれは日本の文化や歴史を理解してから、外国に行ったほうがいいでしょう。僕が初めてアメリカに行った時、禅についてあちこちで聞かれました。でも全然知識がなかったので、あわてて英語の本で勉強して、あたかも詳しいかのように話をしたものです。相手がこちらを理解しようとするのは、リスペクトあってこそ。それには誠意を持って応対しなければいけません。

 僕は本の中にたくさんのグルを見つけてきました。人というよりも、そこに綴られた言葉や思想が、僕を育ててくれた気がします。

 一方、アメリカの友人たちが持っていた彼らなりのグルは、チェ・ゲバラ、カストロ、ボブ・マーリー、ジョン・レノン……そんなヒーローたちです。こうしたカリスマからパワーをもらったり、憧れてスタイルを真似するのはいいとしても、崇拝してはいけないと僕は思っていました。グルを崇拝する組織を観察していると、必ずどこかで衰退して、壊れていく。盲目的に人に力を託すのは、一番危ない行為なんです。

 そもそも僕はずっとインドの神秘主義的哲学者のクリシュナムルティを崇拝していました。憧れるあまり、彼の言葉をそのまま使って、友達に手紙を書いていた時期もあります。そのうち、彼から自由にならなければいけないなと感じ、彼の本を読むのをやめました。フォロワー精神を捨て、疑問を感じて反対することが、本当のカウンターカルチャーであり、アウトサイダーだと気づいたからです。ヒーローはいてもいい。でも、道しるべぐらいの存在であった方が賢明でしょう。

 読書を通して、自分の内面を見つめるのも貴重な体験です。ただし、自分の内面や精神世界に興味を持つのは、うまくいかなくて弱っている時が多い。そういう時は、精神の自由から一番遠いところにいます。僕自身がそうだったからよく分かる。鬱になっていると、自分のことばかり考えて、人に対する思いやりやユーモアのセンスを失います。その時、ブッダやキリストが隣に立っていても、きっと何も感じないでしょう。

 別に追求してなくても、神を感じることはできます。たとえば旅の途中、夕日を眺めて感激する時。そのような永遠を感じる瞬間、解放感がもたらすものを、僕は「神」と呼びます。「神」がポジティブな体験の中にあるとするなら、人に憧れる前に、まずは自分を持つべきです。

日本が特別な国であるのは、平和憲法があることと無関係ではない

 終わりなき高度経済成長は、二十年前に終わり、もはや過去の遺物になりました。経済が永久的に成長していくはずもないのに、いまだその幻想を捨てられない人をよく見かけます。

 今のような時代は、無駄なものは買わない、要らないものは捨てるなど、自分の生活をシンプルにする必要がある。そのうえで、幸せとは何か、何が豊かな生き方なのか、考え直すべきです。自分にとって一番大切なものは、もしかしたら時間かもしれないし、本を読むことかもしれない。一度物質主義から離れないかぎり、その答えは見えてきません。

 国連が発表する国別幸福度ランキングで、日本の順位は決して高くない四三位でした。でも物の考え方を少しシフトするだけで、幸福度は上がるはずです。日本は民度が非常に高い。僕はランキング上位の北欧よりも、日本に住みたいと思います。

 それは東日本大震災が起きて、強く感じたことです。暴動も店の略奪も起きないし、電話ボックスもタクシーにもきちんと並んで、ピースフルに対処していました。しかもそこには「これって普通だよね」という感覚があった。民度の原点は、思いやりであり、寛容さです。その点、日本の助け合おうとする文化は、世界に類を見ません。

 日本が特別な国であるのは、元来の気質もあるだろうし、平和憲法があることと無関係ではないでしょう。にもかかわらず、「世界の一員になろう」「武装すべきだ」という方向を目指すのは、もったいないことです。ISの問題でも、日本は平和を守る国であって敵意はないこと、戦争には反対の立場であることを、安倍首相にはもっともっとアピールしてほしかった。アメリカにいくら恩義があるといっても、ドイツのように嫌なことは嫌だと態度を表明すべきです。

社会が「これが正常だよ」と定義することを
忠実に守っていった結果、心が壊れていく人たちがいる

作者イメージ  振り返れば、いろんな国を旅してきました。ISの話が出ましたが、イスラム圏も数々の国を訪れています。

 高校卒業後、北欧、ヨーロッパを縦断して、トルコ、イランへと足を伸ばしました。テヘランは、若い女性たちが髪を隠さずにクラブやディスコで遊んでいて、非常に西洋的だった。それからアフガニスタンに向かったのは、まだソヴィエト(現ロシア)と戦争が始まる前のことです。少し高台にあった首都のカブールは、エキゾチックで、空気がきれいで、ヒッピーにとっては天国のような世界でした。

 概してムスリムは「優しい」と感じます。モロッコでカフェに入った時は、客が全部男性で、一緒だった妻がトイレに行きたくても、男子トイレしかありません。するとお店の人が店内の男性を全員外に出して、彼女が用を足すまで門番をしてくれました。

 ハートで語って、男気がある。その代わり、裏切ったら厳格。そんな性格の人間が多く、世間が漠然と抱いているような「イスラム人=野蛮で何をするかわからない人々」という認識は、間違いだと断言できます。ISのような存在は、ごく一握りにすぎません。

 だからアメリカがアフガニスタンを空爆した際、旅で出会った人たちの顔が浮かんで、胸が痛みました。9・11以降、アメリカはかつての自由な雰囲気を失った気がします。最近公開された映画『アメリカン・スナイパー』を見て、その思いを新たにしました。主人公は、イラク戦争で160人を殺した実在の狙撃手、クリス・カイル。彼は善人ではありますが上層部から吹き込まれた独裁政権を潰しに行く話を鵜呑みにして、イラクの歴史や人となりを勉強しようとせず、一途な正義感に燃えた単純な人間です。

 あの映画では、いろいろな側面から物事を判断しない理解力のなさが、僕は何よりも怖かった。軍隊はそういう人たちが利用されやすい組織なのでしょう。イラク戦争だけでも、毎年250名以上の帰還兵が自殺すると言われています。社会が「これが正常だよ」と定義することを忠実に守っていった結果、心が壊れていく人たちがいるわけです。

 これは軍事に限った話ではなく、ビジネスでも同じなのではないでしょうか。何の疑問を抱かずに会社の言うことを忠実に遂行する人たちが、心を病み、時には社会をおかしな形に変えてしてしまう。

 だから、世間やメディア、政治家の言うことは、まずは疑ってかかった方がいいんです。人に判断を委ねない。自分なりのスタンダードを模索する。そして、自分の考えを持つ。自分のルールを作る。自分の行く道を決める。それがアウトサイダーの姿勢であり、この時代にこそ、その素養が求められるはずです。

構成/鈴木工
撮影/山口真友子
東京堂書店トークイベント
「乱世を切り拓くアウトサイダー的思考」(2015年2月26日)より

告知 トークイベント第2弾決定!
「ロバート・ハリスが語る、アウトサイダーな人生哲学」
『アウトサイダーの幸福論』発刊記念
ロバート・ハリス、トークショー&サイン会

2015年3月21日(土) / 東京代官山・蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
軽やかに生きること、自分のルールに忠実に生きること。
無頼派作家にして人気ラジオ・ナビゲーター ロバート・ハリス氏が、路上と放浪の人生哲学を、旧知の仲のフリーランス・ライターの今井栄一氏と語り合います。
詳細はこちら

アウトサイダーの幸福論』刊行記念 ロバート・ハリス氏トークショー

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