集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

007 祖母の死

 子ども達の旅の最後に、安倍晋三総理が子どもたちと面会したいと言っているという連絡が外務省から入った。そのため、急きょ全員で翌日に総理官邸に行くことになった。

 釜石からの帰りの車中では皆大騒ぎだった。ラワンさんが総理へのスピーチをすることになった。彼女とラウィア先生はスピーチの原稿を書いている。その間にも外務省の担当者の方からひっきりなしに電話が入る。スピーチは1分とのこと。その確認だ。

 ラワンさんは、「ガザの子ども達を代表して総理に話をする!」と張り切り、原稿を書いては、なんども読み返している。車内で食べるためにお弁当を新花巻駅で買ったのだが、それにも手をつけない。

 東京駅に着いたのは夜の10時過ぎ、既に遅い。明日に備えて寝なければと皆で言いあい、それぞれの宿泊先のホテルに戻った。

 その時、ラウィア先生から連絡が入った。ラワンさんの祖母が亡くなったという連絡だった。ガザから連絡が来たのだと言う。ラワンさんはすぐにガザに帰ると、泣いているようだった。急きょ、ラワンさんの泊まるホテルに再び集まった。

 ラワンさんの祖母は90歳近い高齢で、長く病気を患っていて、いつ亡くなってもおかしくないと言われていたそうだが、ラワンさんのショックは大きい。途方に暮れている。

 明日の話になった。ラワンさんは「総理大臣に会って話をしなければいけない」と言う。私は「その心意気はとても素晴らしいし嬉しいが、もしつらいようであれば、総理大臣との会合は来なくても大丈夫。皆わかってくれる。スピーチも、ガイダさんやモハメドくんもいるよ」と話した。ガイダさんもモハメドくんも頷いた。

「無理しなくていいんだよ。総理大臣よりあなたの方が大事なのだから」と言うと、ラワンさんは「ありがとう」といって笑顔を見せてくれた。

 翌日――。
 ラワンさんは総理官邸で立派なスピーチを行った。祖母が亡くなったことも伝えた。

第04章08回は1月19日(金)掲載予定
(2018年01月12日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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