集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

005 奇跡の出会い

 翌日、3人は都内の女子高を訪問した。彼らから、日本の学校に行ってみたいとの要望があったのだ。

 女子高では生徒さん達の大歓迎を受け、訪問したクラスで、色々な質問を受けた。彼らはガザでの生活の話、学校のこと、将来への思いを、そして2014年の夏の戦争のことを話した。

 クラスで話をした後、子ども達は別室に移り国際関係に興味のある数人の生徒さんとさらに話をした。ある生徒がこう聞いた。

「ガザでは色々なことが起こっていると思う。私達はそれを報道でしか知ることができない。でも報道されていないことがいっぱいあると思う。それを教えて欲しい」

 ガイダさんはこう答えた。
「ガザでは経済封鎖があり、必要な物資が入ってこない。そのため生活が大変だ」
 そして突然涙を流しながらこう言った。
「必要な医薬品も入ってこない。私のお父さんが死んでしまったのもそのせいだ」

 私はこの来日の前に、子ども達3人に将来の夢を聞いていた。モハメドくんとラワンさんが「医者になりたい」と言った。ガイダさんにも尋ねると、彼女はすぐに「心臓外科医になりたい」と言った。

 ガザの子ども達はよく医者になりたいと言う。これは人を助けたいという思いと、安定した職業へ就きたいという現実的な思いもある。しかし、心臓外科医という具体的な返答をした子は初めてだった。

 しばらくすると、ガイダさんは父親が亡くなったことを涙ながらに私に話した。父親は心臓が悪く、病院に行ったけれど薬ももらえず、2015年に亡くなったということだった。

 訪問した女子高でも、ガイダさんは父親を思い出したようで、涙ぐんでいた。

 学校を去る際、ガイダさんの所に先ほどの質問をした生徒がやって来た。そして、「亡くなったお父さんのことを聞いて、本当にごめんなさい」とガイダさんに泣きながら話しかけた。ガイダさんも目に涙を浮かべて、二人はしばらく抱き合った。

 この生徒さんは、現在、大学1年生になった。私が帰国した際に、彼女と再会したのだが、ガイダさんとの出会いは彼女にとってとても大きなものだったそうだ。将来の進路を考えるきっかけになったのだ。

 私はガザの子ども達にするいつもの質問をした。
「将来は何になりたいの?」

 彼女はこう答えた。
「報道関係の仕事に就きたいと思っています」

 ガイダさんと話すことで、日本では報道されないことが多くあることを実感したのだそうだ。それを知りたい、そして多くのことを世の中に伝えたい、と目を輝かせながら話してくれた。

第4章6回は1月5日(金)掲載予定
(2017年12月22日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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