集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

002 なぜ、パレスチナで凧が揚がるか

 パレスチナは日本から遠い。歴史的な関わりもあまりない。震災の被災者に対してパレスチナの人がなぜ熱い思いを抱くのか、不思議に思われるかもしれない。

 でも、これには理由があるのだ。

 東日本大震災の当日、私はレバノンへ出張中だった。その日は金曜日で、出張の最終日だった。昼過ぎに業務を終えてベイルート空港に向かった。日本で地震が起こったこと自体はUNRWA「ウンルワ」の同僚から聞いていたが、それがあれほどの被害をもたらすものだったことは知らず、空港の待合室のテレビを見て初めて知った。衝撃で言葉も出なかったが、その間、UNRWA「ウンルワ」の同僚や知人達からメッセージやメールをたくさん頂いた。日本の家族は大丈夫か、衝撃を受けている、本当に残念だ、等。

 自宅のあるアンマンに帰っても、現地の多くの方に声をかけて頂いた。その声の多くは 「日本には今まで色々なことで助けてもらい、とても世話になっている。あんな大惨事が起こって本当に悲しい」「良心的な日本人になぜあんな大惨事が起こるのか」というものだった。

 海外にいると、日本に対して感謝の言葉を聞くことは非常に多い。特に中東ではそうだ。私は過去20年以上中東を中心に生活をしているが、日本人であることで損をしたことは今まで一度もない。贔屓目であるかもしれないが、日本人であることで一目置かれることがよくある。もちろんその根底には日本の電化製品・車に対する強い憧れがあるのだが、それだけではない。

 日本人が持つ価値観(Values)への敬意がその根底にあると思っている。それは、真面目であること、継続し続けること、そして嘘をつかないことだ。この価値観が評価・感謝されている。特に政治的に非常に複雑な状況にある中東ではそうだ。

 これは援助の金額の大小とは必ずしも関係しない。例えば、米国だ。中東での米国の援助・協力は、日本と比べると、金額的には比べ物にならないほど大きい。米国の援助額は 日本と比べて一桁(10倍)、時には二桁(100倍)の開きがある。だからといって、日本に対しての感謝が、対米国と比べて10分の1、あるいは100分の1かというと、それはまったくない。

 米国からの援助は、様々な地政学背景・歴史から、政治的なものとして捉えられることが中東では多い。裏に何か政治的思惑があるのでは、と取られるのだ。その点日本の援助は、人道的であること、政治的背景が他国に比べて薄いこと、そして、現地の政治状況にかかわらず継続されるという価値観に基づいており、それに対する信頼性も高い。これを知っておくことは今後の日本の国際協力・援助を考える上でとても大事だ。

第4章3回は12月8日(金)掲載予定
(2017年12月01日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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