集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

007 絶望の大地で私たちができること

 先日、絵を描くのがとても大好きという15歳の女子中学生RさんからFacebookにメッセージが来た。日本が大好きで、日本のアニメが大好き、と書いた絵を送ってくれた。話を聞くと、絵が大好きで時間があれば(家に電気がついている間は)いつも描いていると言っていた。ガザでは絵はまったく習っていないが、将来は日本に行きたい、絵の勉強をしたいそうだ。

 そこで私の知り合いである日本人の美術の先生に相談すると、「基本をしっかりと勉強することが大事。ガザで絵の先生がなかなかいないのなら、一番良いのは自分の手を毎日きちんと描くことです」と教えて頂いた。そして手本となる手のデッサンを送ってくれたのだ。そのデッサンをRさんに送ると、非常に喜んでくれた。

 その彼女にガザの生活を聞いてみた。
「ガザの生活はやはりとても大変。下水処理施設が壊れているので、海の汚染もひどい。海で泳ぐと病気になる。それでも、私はガザの生活は『とても良い』(it’s lovely)と思う」と返事が来た。
「ガザのことが好きなの?」と聞くと、「もちろん」と彼女は答えた。
「どうして?」と聞くと、次の返事が返ってきた。原文のままで載せよう。

 “it’s my country… my land… people are really kind… the way we live… our flag… our traditions and culture… our history.”

 訳すと、「私の母国だ、私の大地。人々は皆本当に親切だ。私たちの生活、私たちの国旗、私たちの伝統と文化、私たちの歴史」であろうか。

 先日、ドイツで難民の世話をしていたカウンセラーのドイツ人女性に会うことがあった。ドイツには、 シリア難民・イラク難民・アフガニスタン難民、そしてアフリカ諸国の難民が多くいる。彼女はその難民たちの世話、特に両親と別れ、離れ離れになった子供を含む未成年の世話をしていたそうだ。

 彼らがどのような状況で難民になり、どうやってドイツまで避難してきたか、彼女はいろいろ教えてくれた。なかでも、様々な心的外傷後ストレス障害(PTSD)で悩む子供たちが多かったそうだ。

 彼女は「避難してきた地でうまく対応できる子もいれば、そうでない子もいる」と語った。そこで、私は聞いてみた。「どういう子がうまく対応できて、どういう子がそうでないのか」と。

 しばらく考えて彼女がこう言った。
「一概に言うことはとても難しいし、違うかもしれない。でも私の経験からだと、家族がしっかりしている子はうまく対応でき、そうでない子は難しい」

「どういう意味だ」と聞くと、私の個人的な印象なのだが、と前置きしながら、「小さい時に家族で一緒に暮らし、きちんとした生活をした子供の方が(難民生活の厳しい状況に)適応しやすい傾向があると思う」と彼女は話してくれた。

 私はマジドさんやRさんのことを思った。

 ガザの人々は家族、親戚、社会の生活をとても大事にする。自分が生まれたところで育ち、家族や親戚と絶えず一緒にいて、一緒に大きくなっていく。自分の居場所がある、いるべき場所が絶えずある。それは彼らにとって非常なことなのだ。

 10年の間に3度の戦争があり、電気が来るのは最近では1日2時間、200人の新規教員の公募に2万7000人が応募してくる、その絶望の大地で、マジドさんのような人物が生まれる。

 もちろん、ドイツ人カウンセラーの話が科学的な分析ではないのは承知している。しかし、その一方で、ガザの人々、家族、社会の強さはここにある、とも、現地の人々と接すると私は感じるのだ。

 ガザにはマジドさんのような人材がいる。磨けば世界で通用する人材になる若者も大勢いる。しかし、ガザの生活は疑いなく厳しいし、絶望感は強い。ガザから逃げたい、という人も非常に多い。絶望の大地なのに違いはない。

 その中で我々日本人に何ができるか、それを次回考えてみる。

第4章1回は11月24日(金)掲載予定
(2017年11月17日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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