集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

004 封建的社会で戦う女性マジドさん

 彼女のプロジェクトは、焼却灰を利用してコンクリートブロックを作るというものだ。ガザでは経済封鎖の影響で、コンクリートの入手が困難だ。イスラエル側が、ガザからイスラエルへの地下トンネルの建設に利用(流用)されるとして、コンクリートの搬入を規制しているためだ。しかし、2014年夏の戦争で崩壊した家の再建にはコンクリートが必要だった。ブロックも不足している。

 マジドさんはそこに目をつけた。ガザではコンクリートは不足しているが、焼却灰は非常に多い。電気・ガスが不足するので、木材を使用することが多いためだ。その焼却灰を利用し、普通のコンクリートの量を半分に減らし、焼却灰と混ぜてブロックを焼く。ブロックは、普通のコンクリートブロックの半分の重さで、強度は同じだ。

 技術的内容は私には全くわからなかった。彼女の説明には、知らない単語もたくさん出た。ただ、周りにいた日本の起業専門家に聞くと、理論上は彼女の説明は正しいとのことだった。

 ステージに行き、彼女が焼却灰を混ぜて作ったブロックと、彼女が参考のため持ってきた普通のブロックを持ち比べてみた。確かに彼女のブロックは軽い。焼却灰のせいか少し手が汚れるものの、その出来に感心した。ただ、私を強く揺さぶったのは、このブロックより、マジドさん自身だ。

  小柄な彼女は笑顔が素敵な女性だが、ガザにいる普通の22歳の女性だ。その彼女が、力強い声で、我々一人一人の顔を見ながら自分のプロジェクトを説明していく。

「焼却灰を混ぜる、というアイディアはあったのだが、それを実際やってくれる工場を探すのが大変だった」「大学を出たら結婚しろ、という社会の風潮やプレッシャーが強い」「私が工場に行くと、そこの責任者(皆男性だ)の質問は、どうやってブロックを焼くのか 、ということではなく、いつ結婚するのか、結婚しないでなぜこんなことをするのか、だった」と笑いながら話す。

 でも、彼女は何度も工場に足を運び、説得した。そうして、ようやく作ってもらったと、ブロックを持ち上げる。

 22歳の小柄な女性が、封建的な社会で、男性を、そして仲間を巻き込み、自分の思い、ビジョンを実現していく。この時点で、私をはじめ日本からの参加者は、もう皆感動で声が出なかった。

 しかし、ガザからの参加者は違った。ガザは非常に封建的な社会だ。男性が社会、家族の中心で、家庭の中でも父親が最終決定者だ。女性の結婚年齢も早い。平均的な結婚年齢は女性20歳、男性25歳だ。子供の数も多い。平均出生率は4.5、日本の倍以上だ。現実問題として男尊女卑の傾向はある。

 マジドさんの話を聞いているガザの男性から次々と質問の手が挙がった。彼女より年上の20代後半、30代の男性たちからだ。 彼らの質問は、技術的な内容が多く、非常に細かい内容を聞いている。時には質問というより、技術的な説教をしているのかわからない場面もあった。正直に言えば、私は「これは男の嫉妬かな」とも感じた。

 しかし、マジドさんは、男性たちからの質問にすべて答え、彼らの口を塞いでしまった。言葉は悪いが、襲ってくる“敵”を次から次に払い投げ、なぎ倒す。そんな感じだ 。

 彼女が質問者を払い投げている間、私は机の下で一人、皆に気づかれないよう、こっそり拍手をしていた。何かとてつもなく大きなことに接している、その幸運を感じながら。

 

第3章5回は11月03日(金)掲載予定
(2017年10月27日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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