集英社新書WEB連載
文字の大きさ

ガザの声を聴け!

002  The World Is Flat

 私がこう言ったのには実は理由がある。

 UNRWA「ウンルワ」は、以前から、ガザで職業訓練校を持っている。そこでは高校を出てからの2年間、現地のニーズに合わせ、就職に有利な職種の訓練を行っているのだが、やはりその限界を感じてもいた。

 それは、現地経済を対象にした人材を育成することの限界だ。現地の経済が右肩上がりで発展していれば、就職も生活も安定する。しかし、ガザのように、経済が悪化し、右肩下がりで崩壊している場合、現地での経済をあてにして育てられた人材の将来は残念ながらとても暗い。なにしろ職がないのだ。

 それを打開するには、「世界に通用する人材を育てる。そのための支援をする。それしかない」と、以前から思っていた。世界で通用する人材であれば、ガザの壁も超えられる。混沌の中東も超えられる。具体的に言えば、経済が潤うドバイなどのペルシャ湾湾岸の地域がまずは対象となる。そして、その先には、ヨーロッパ、アメリカ、そして日本も対象となる。

 IT産業はその典型的な例だ。前述のとおり、経済封鎖により人や物資の移動はガザでは著しく制限されている。しかし、ネットには国境がない。私の住むヨルダンからガザにメールを出すと、秒速で返事が来る。そこには人の移動を制限する国境や検問所などない。絶えず繋がっている。私の好きなアメリカのニューヨークタイムズの記者Thomas Friedmanの本のタイトルではないが、“ The World Is Flat” (地球は平ら)だ。

 IT産業で世界に通用する人材を育てれば、世界中から仕事のオファーが届く可能性がある。ガザと接しているイスラエルはIT大国だ。複雑な政治問題はあるが、ガザとイスラエルでの商売は不可能ではない。そして、そんな事例はITの世界だけではないはずだ。様々な分野で可能性があるに違いない。

 人材育成の話になると、もし育てたとしても、自国を出て欧米の先進国に行ってしまうのでは、と聞かれることが多い 。もちろんその可能性はある。誰だってより良い生活をしたい。でも、それはそれで良いのだ。様々な国に行って、様々な仕事をした人は、自分の国が政治・経済的に落ち着いて復興が始まれば、きっと祖国に帰ってくる。いずれ国づくりを手伝ってくれるのだ。

 私たちは、「ぜひ来年(2016年)の夏にガザで起業支援をしましょう!」と、コーヒーで乾杯し、その日の会合は終わった。身も心も熱く、希望が広がっていった。

 そして、ガザの起業家支援は、2016年の8月10日、11日に「ガザ・アントレプレナー・チャレンジ」(Gaza Entrepreneur Challenge)という形で実現した。日本から7人もの起業支援の専門家や関係者がガザに来て下さった。

 コンテストに応募した中には、様々な人材がいた。我々は多くのことを学んだし、ガザの人材を育てようという思いは確実に届いた。しかし、その一方で、我々が大きな思い違いをしていることにも気づいた。

第3章3回は10月20日(金)掲載予定
(2017年10月13日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

ページトップへ