集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

006 スイッチの入っていない冷蔵庫

「今までの3回の戦争はよく覚えている。というか忘れられない。最初の戦争(2008年)の時は7年生(日本で言う中学1年生)だった。近所の警察署が爆撃され、本当に怖かった。2回目の戦争(2012年)も怖かったが、短かったので、最初ほどではなかった。ただ、3回目は、50日ととても長く、毎日戦争が終わるのをずっと待っていた。食べ物がなくなったが、外に出るのが怖く、買いに行けなかった。長くとてもつらかった。私たちが生き延びたのは、単に運が良かっただけだ」

 Tさんは話を続けた。
「生活はどんどん悪くなっている。電気は1日4時間も来ない。暗くなって勉強するときはLEDや携帯のライトを使う。時にはロウソクを使うが、危険なのであまり使わない。生活の改善の兆しはまったくない。昨日も今日も違いはない、毎日が同じ。良くなって欲しいとは思うが、期待はまったくしていない」

 Tさんのお母さんが続く。
「娘の言う通りだ。仕事をしたくても仕事がない。UNRWA「ウンルワ」の資金援助と食糧支援で生き延びている。4月に支援金として、UNRWA「ウンルワ」からは1800イスラエルシェケル(日本円で約5万6000円)をもらった。月にして450イスラエルシェケル(約1万5000円)だ。これでは家賃と必要なものを買うのが精一杯。私が高血圧等の病気になったのも生活が厳しいためだ」

 高血圧の原因には塩分の摂りすぎや遺伝など、様々なものがある。しかし、Tさんのお母さんが言うように、生活が厳しいというのは、バランスの良い食事をする、適度な運動をする、と言う健康的生活を送ることができにくくするため、高血圧になるひとつの要因なのだ。

 そして、お母さんは言う。
「うちには大きな冷蔵庫がある。でも電気が来ないので、スイッチを入れていないし、ものがないので中は空っぽだ。まるで私たちの生活を象徴しているみたいだ」
暗い部屋の隅に、確かに大きな冷蔵庫があった。

 Tさんに私は尋ねた。
「電気がない夜に携帯電話のライトまで使って、なぜ勉強しているの?」
「とにかく大学を卒業したい。そして、何かを変えたい」

 私は、一番下の11歳の妹、Yさんにも聞いてみた。
「勉強は好き?」
「大好き」
「将来何になりたいの?」
「お医者さんになりたい」
「なんでお医者さんになりたいの?」
「お医者さんになってすべての人を幸せにしたい」

第2章7回は9月29日(金)掲載予定
(2017年09月22日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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