集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

003 絶望に押しつぶされて

 私は自分のFacebookをUNRWA「ウンルワ」の宣伝のためによく使う。載せる内容はUNRWA「ウンルワ」の業務、保健局の活動、職員の活躍、お会いした素晴らしいパレスチナ難民の話など。ありがたいことに多くの人から好評を頂いており、友達の数も4000人を超えている。まったく知らない人から時々メッセージが来るのだが、Mさんともそのような形で知り合った。

 Mさんはガザ在住の21歳の男性だ。彼が最初にメッセージをくれたのは2016年の初めだった。Mさんからのメッセージは、高校を出たあと2年制の職業訓練校で大工の勉強をしたが、職がまったくない。UNRWA「ウンルワ」で仕事をしたいが、なんとかして欲しい、というものだった。

 ガザは失業率が高いため、これまでにもFacebookでそのような依頼を受けることがよくあった。その際は、「UNRWA『ウンルワ』には公募の制度があり、それを見て応募して欲しい。ガザでUNRWA『ウンルワ』の職を求めている人は大勢いて、その人たちすべてに対して公平でないといけないので、個々の依頼に応じることは、残念ながら出来ません。本当に申し訳ないがご理解下さい」と答えることにしている。

 Mさんにも同じような返事を送った。通常はそういったやり取りで終わるが、彼は、すぐに返事をしてきた。

「私の家は2014年の戦争で壊された。他に行く場所がないので、壊れた家に住んでいる。家族皆が無職で日々の生活が本当に大変だ」。そして、「私はもうすぐ結婚する。結婚後の生活もまったく安定しておらず、そのためにも職が必要だ」と。

 職がなく生活が大変なら、なぜ結婚するのだろう、と少し不信にも思ったが、ともかく、公募を見てみて下さい、という返事を私は繰り返すほかなかった。

 すると彼が突然、「もし職を得られないならUNRWA『ウンルワ』のガザ事務所の前で自殺する。その責任はすべてUNRWA「ウンルワ」にある」と言ってきたのだ。
 イスラム教では神から授かった命を自ら絶ってはならない、という決まりがあり、自殺は禁忌。私も中東に住んで20年近くになるが、自殺の話を聞いたことはほとんどなかった。彼の切羽詰まった口調が気がかりで仕方がなかった。

 実は、2015年の暮れから、ガザで若い男性の自殺が増えている、という噂が広がっていた。経済的に厳しく、職に就けない、将来の見通しもない、そのために悲観した若者が焼身や投身自殺をするという噂だ。

 実際、Mさんを知る前、ガザのUNRWA「ウンルワ」の診療所の看護師長さんや助産師さんとその話をしたことがあった。信頼のおけるふたりだったので、私は率直な意見を聞いてみたかったのだ。

 ふたりは少し困った顔をしながらも 、若い人の自殺の噂は最近よく聞くと話してくれた。ただ、本当に起こっているのか、増えているかはわからない、自分の周りや親族等には起こっていないから、とのことだった。

 その後、看護師長さんはしみじみとこう言った。
「私には 子どもが6人おり、皆きちんと勉強し、上のふたりは大学も出ている。でも大学を出てもふたりともまったく職がなく、毎日家でぶらぶらしている。きちんと成人したふたりが毎日家で腐っている。それを見ていると私はとてもやるせないし、自殺を考える若い人たちの気持ちもわかる気がする」

 それを聞いていた助産師さんも、こう続いた。
「私も子どもが6人いるし、上のふたりは大学を出ている。そしてそのふたりともやはり職がなく、毎日家にいる。(看護師長さんが言う)その気持ち、よくわかる」

第2章4回は9月8日(金)掲載予定
(2017年09月01日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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