集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

002 経済封鎖という見えない戦争

 経済封鎖は、ガザの人々にとって、目に見えない戦争である。
 この封鎖は今年(2017年)で11年目となり、まったく改善の兆しがない。物資の出入りの制限は続き、ガザで作られる農作物・製品の輸出も進まない。
 ガザはイチゴの生産地として有名で、季節になるととても大きく甘いイチゴが収穫できる。以前はヨーロッパにも輸出されていた名産品だった。
 しかし、今はその輸出がほとんど止まっている。これは産業の崩壊を意味する。ガザは非常に小さな地域なため、ガザ内だけを対象にした産業ではどうしても限界があるのだ。

 社会の下部構造(インフラ)も、10年にわたる経済封鎖とその間の3回にわたる戦争で大きな障害を受けている。ガザの発電所は戦闘により大きく壊され、その後も経済封鎖で燃料のディーゼルの輸入が進まず、電気が1日2時間しか来ないことが普通だ。上下水道の設備の崩壊も多く、水道水は塩気があり、下水道の処理施設の周りでは悪臭が漂う。産業の崩壊、下部組織の崩壊で、ガザの失業率は世界銀行の発表によると約4割、若者に至っては6割と報告されている。

 そのような状態で、ガザの人々のひとつの希望は「ガザを出る」ことにある。それは勉強のためでもあり、就職のためでもある。しかし、なかなかうまくは行かない。経済封鎖では人の出入りも厳しく制限されているからだ。

 ガザを出るにはイスラエル側のエレツという検問所を通る必要があるが、その通過許可がめったにおりない。海外の大学から入学の許可は出ても、エレツの通過許可が出ず、予定通り進学できない、という話もよく聞く。
 ガザには、もう一つエジプト側にラファという検問所もあるが、そこもエジプト政府とガザを実質統治するハマス政権との政治的確執で閉鎖されていることが多く、問題の解決にはなっていない。

 国連は、2020年にはガザは人が住めない地域になるのではないか、という強い警告を含めた報告書を2012年に出している。
 これが現在もなお続いているガザの目に見えない戦争なのだ。

 ガザの人々は皆大きな被害を受けている。中でも若者の被害は甚大だ。若者は、元来、将来の希望を元に生きている。私自身も若い時は、希望を食べて生きていた。しかし、ガザの若者には、希望を失い、夢を無くした人が多くいる。

第2章3回は9月01日(金)掲載予定
(2017年08月25日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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