集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

006 パートナーシップの重要性

 パレスチナ難民はいまだに世界最大の難民集団である。2017年にはパレスチナ人が難民になり70年目になる。長く、つらい歴史だ。昨今のシリア危機を始め、世界では難民問題が話題となったものの、その存在を忘れられている。そしてその難民を支えるUNRWA「ウンルワ」の存在も。それを変えたいし、変えなければならない。

 そのために保健局長である私にできる仕事のひとつは、UNRWA「ウンルワ」の活動をきちんとした論文にして発表することだ。医療・保健の分野では、やはり論文がないと相手にされない。自前の報告書では褒めてはもらえるが、本当の意味では評価されない。きちんとした論文をきちんとした医学雑誌に発表する。それが世界でアピールするためにも大事なのだ。しかし、残念ながら、これはUNRWA「ウンルワ」だけではできない。先ほど、UNRWA「ウンルワ」のことを「途上国」政府、と喩えたが、我々は言って見れば公務員だ。研究者ではない。ではどうするか。

 答えはパートナーシップだ。論文をきちんと書ける大学・研究機関、あるいはコンサルタントと一緒に仕事をして、我々の活動を元にして研究論文を書いてもらうのだ。我々はそれを進めた。

 家庭医チーム制度と電子カルテを導入した際、糖尿病患者さんの管理に、結核対策の手法を導入した。専門的にはコホート分析というのだが、要は患者さんが何人発見・治療され、そのうち何人糖尿病が管理されているかを継続的に見ていくものだ。 そのような分析は当たり前と思われるかもしれない。実際、医療施設単位でこういった分析を行っている例は多いが、UNRWA「ウンルワ」のように組織としてそれを行っているところは少ない。そして難民を対象に行っている組織は今までなかった。

 非常に優秀なコンサルタントに来ていただき、一緒に分析した。最終的にコンサルタントと一緒に5つの論文を書いた。難民を対象にした糖尿病の管理を書いた論文は実はあまり多くない。2015年に英国の学者が、今までに出版された難民の糖尿病・生活習慣病の管理を書いた文献の包括的レビューを行った。それに取り上げられた文献は計8つ、そのうちの4つ、つまり5割が我々の文献であった。その意味で我々の論文は未だに影響力が強く、世界的にも評価を頂いている。2017年には糖尿病の2つの世界会議に演者として呼ばれている。

 これらの活動はUNRWA「ウンルワ」やパレスチナ難民の宣伝・啓蒙にも重要な意味を持つ。UNRWA「ウンルワ」は国連機関だから世間の注目は高い、と思われるかもしれない。しかし、実はそうではないのだ。国連機関の世界的な評価は必ずしも高くない。国連に対しては、官僚的、硬直的との批判が世界的には強い。UNRWA「ウンルワ」がパレスチナ難民のことを伝えるより、世界的に評価されている機関・組織が行ったほうが影響力が強いのも事実だ。パレスチナ難民のことが知ってもらえるのならば、それで良いと私は思う。

 英国に「ランセット」という世界的な医学雑誌がある。世界中の医療従事者・学者が読む雑誌だ。そこに論文を載せるのは学者としては夢だ。いま、我々はその「ランセット」と一緒に仕事をしている。「ランセット」の編集長のリチャード・ホートン博士には会議で会ったのだが、彼はパレスチナ・パレスチナ難民の状況に非常に理解が深く、話が合った。彼と一緒に、毎年世界保健機関が行う年次総会に合わせて、2014年からパレスチナとパレスチナ難民の会を開催している。関係者や若い人が多く集まり、とても熱気あふれる会だ。主催する我々も元気付けられ、パレスチナ難民への理解と支援が広がる会議だ。

 パレスチナ難民の声は、世界に届いていない。それを変えていく。それも私の重要な仕事だ。

第2章1回は8月19日(金)掲載予定
(2017年08月11日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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