集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

005 家庭医チーム導入の成功

 家庭医チーム導入前は、各診療所には3種類の外来があった。妊婦・新生児を診る母子保健外来、糖尿病・高血圧の患者のケアをする生活習慣病外来、そして風邪・腹痛等の一般的な疾患を診る一般外来だ。一見普通に見えるが、実はこの制度には問題がある。

 仮にファティマさんという妊婦さんがいたとしよう。ファティマさんは通常は母子保健外来を受診するが、妊娠中に糖尿病を併発すれば生活習慣病外来を受診し、風邪を引けば一般外来を受診する。これでは、診療所にはファティマさんが3人いることになる。妊娠したファティマさん、糖尿病のファティマさん、そして風邪を引いたファティマさんだ。患者さん中心のケアではなく、疾病中心のケアだ。

 家庭医チーム導入にあたり、このような疾患別の外来を廃止した。 診療所に医師が3人いれば、各医師に看護師・助産師を割り当て3つの家庭医チームを作った。そしてその地域の住民(難民)を3群に分け、各チームに割り当てる。これにより、受診の理由がなんであれ、住民(難民)はいつも同じチームの医師・看護師・助産師に診てもらえることになる。医療従事者と患者さんとに関係ができ、継続的な治療が行われる。患者さん、そして家族中心のケアができる。これが家庭医チームだ。

 この制度は、日本でも話題にはなるもののまだ広く実施されていないが、実は欧米の先進国では広く実施されている(英語名:Family MedicineあるいはGeneral Practitioner)。患者さんを、そして家族を継続的に、包括的に診ていく 。医療だけでなく生活全体のケアが必要な生活習慣病に最も適した制度だ。

 この変革はうまく進んだ。2012年から導入を進めたが、2016年末にはヨルダン・レバノン・パレスチナ(ヨルダン川西岸・ガザ)のすべての診療所に導入された。シリアでも導入が進んでいる。患者さんの評判も良かった。自分の、そして自分の家族の主治医がいることが喜ばれた。毎回違う医師だと色々なことを最初から説明する必要がある。それが不要になった。お互いを知っているからだ。医師からの評判も良かった。家庭医チームだと患者さん全体を診て、すべての症状を診る。それが良かったようだ。

 改革を手助けするため、電子カルテの導入も進めた。UNRWA「ウンルワ」では、2009年から自前の電子カルテを作りその導入を進めていた。電子カルテを2013年に家庭医チーム用に作り変えてもらい、家庭医チーム制度導入に併せて広めていった。患者さんの受診、診察、検査、投薬のデータをすべて電子化した。診療所の活動をまとめる報告書作成の機能もつけた。電子カルテ導入に必要な通信設備等のインフラも改善していった。

 電子カルテは職員の評判もとても良い。今まで大量にあった手書きのカルテや書類がなくなり、すべてパソコン入力で済む。患者さんの既往がきちんとわかり、検査結果等の治療経過も一目瞭然だ。薬局での処方も医師から送られてきた指示をパソコンで見てすぐ行える。ただ、難民キャンプ等では電力・通信のインフラにトラブルが生ずることがあり、その対策を今進めているところだ。

 家庭医チームや電子カルテの導入以外で、UNRWA「ウンルワ」の保健サービスをなるだけ近代化し、時代の変化に対応できるようにする、もう一つ大事な仕事がある。それはUNRWA「ウンルワ」、そしてパレスチナ難民のことをもっと知ってもらうことだ。

(続く)

第5回は8月11日(金)掲載予定
(2017年08月4日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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