集英社新書WEB連載
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ガザの声を聴け!

003 私の仕事の内容

 では、UNRWA「ウンルワ」での私の実際の仕事は何か。

 パレスチナ難民の健康を守るためにUNRWA「ウンルワ」は143の診療所を持っている。そこでは約3300人の職員が働いている。医者約500人、看護師約1000人、等、巨大な組織だ。活動の場所はパレスチナのガザやヨルダン川西岸、ヨルダン、レバノン、シリアに及ぶ。組織上とても複雑だ。

 前述した通り、パレスチナ難民は総数約560万人登録されているのだが、人口1億3000万人の日本からするとこれは小さい規模だ。しかし、中東では人口500万人以下の国は結構ある。パレスチナ難民がいるレバノンの人口は、約100万人のシリア難民を除くと460万人。石油産出で知られている湾岸諸国も軒並み少ない。オマーンは440万人、クエートは430万人、カタールは230万人だ。ヨーロッパ、南北アメリカ、アフリカ にも人口500万人前後、あるいはそれ以下の国は少なくない。アイルランドの人口は480万人だし、ノルウェーの人口は520万人である。「人口」560万人程度の「国」は世界的に言ってもたくさん存在するのだ。

 UNRWA「ウンルワ」は国連機関だが、「途上国」政府の中に置き換えると、その機能を理解しやすいかもしれない。私がいる保健局はその「途上国」の保健省(日本で言えば昔の厚生省)。私の仕事は言ってみればその「途上国」の保健大臣にあたる。ガザ、ヨルダン川西岸、ヨルダン、レバノン、シリアの各地域にその支所がある。日本で言えば各県の福祉保健局であろうか。その各支所に診療所があり、その総数が143だ。

 診療所では、様々な医療サービスをパレスチナ難民に提供している。その主要なサービスを紹介しよう。

 最も歴史がありパレスチナ難民に多く利用されているのが母子保健サービスだ。妊娠中のケアに始まり、子供が生まれると予防接種や発育の検査をする。母子手帳もある。 これは日本の協力で導入され、手帳の内容も日本とほぼ同じものだ 。子供の成長の記録であり予防接種の記録となるので母親の評判は非常に良い。年間約10万もの妊婦さんのケアをしている。

 UNRWA「ウンルワ」で1990年代に始まったのが糖尿病・高血圧を中心にした生活習慣病の治療だ。パレスチナ難民の間では糖尿病・高血圧が非常に多い。患者さんを診断し、インシュリンを始め必要な薬剤を提供している。食生活改善のための健康教育も行う。患者さんの数も多い。2016年末までに約28万人の患者が治療を受けている。

 風邪や腹痛などの通常の疾患ももちろん治療するため、常に忙しい。診療所には検査室があるし薬局もある。100種類以上の薬剤を必要に応じて提供している。診療所によっては歯科医や理学療法士もいる。入院病棟はなく外来だけだが、診療所によっては医師が10人いることもある。診療所・クリニックとしての規模はとても大きいと言える。

年間の総外来受診数はのべ900万人にもなる。1人の医師が1日平均80人の患者さんを診ることもある。非常に忙しい診療所だ。

 前述のとおり、この143の診療所の総括が私の仕事だ。診療所でどのような疾患の治療をするか、どのようなサービスを行い、時にはどのようなサービスは行わないか、それを決める。そしてそれを実施するシステムを作っていくのも仕事のひとつだ。仕事は多岐にわたるが、とてもやりがいは大きい。私の手がける仕事のひとつ、2011年から行っている保健サービスの改革について述べてみようと思う。

(続く)

第4回は7月27日(金)掲載予定
(2017年07月21日掲載)

清田明宏(せいた あきひろ)
作者近影

1961年福岡県生まれ。国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA=ウンルワ)の保健局長で医師。高知医科大学(現・高知大学医学部)卒業。世界保健機関(WHO)で約15年間、中東など22カ国の結核やエイズ対策に携わった。2010年から現職。中東の結核対策では、患者の服薬を直接確認する療法「DOTS」を導入し、高い治癒率を達成。その功績が認められ、第18回秩父宮妃記念結核予防国際協力功労賞を受賞した。

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