集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


13-7(2) 最終回 過剰と蕩尽--映画化された『オン・ザ・ロード』

Gregory Smith(『オン・ザ・ロード』より 8月下旬 TOHOシネマズ シャンテ他公開)
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© Gregory Smith(『オン・ザ・ロード』より
8月下旬 TOHOシネマズ シャンテ他公開)

 『オン・ザ・ロード』の映画化については随分前、僕がニューヨークに住んでいた頃からアメリカで話題になっていた記憶がある。『モーターサイクル・ダイアリーズ』の監督が映画化するらしいぜ、と。ウォルター・サレスが手掛けるのだったら期待が持てるよね、とかエッラそうに勝手に思い込んでいた。その作品の日本での公開がようやく実現する。青山南氏の新訳が出たのがもう今から6年前、あの時は旅先のベトナムで夢中になって読んでしまった。その時の日録にこんなことを僕は記していた。〈『オン・ザ・ロード』の路上での追い越しシーンは、このハノイでの信号機のない道路上での、力にものを言わせるルールにすぐに平行移動する〉。  何しろ数多くの伝説に彩られたビート・ジェネレーションの青春小説である。疾走感というか、過剰と蕩尽のストーリーがすごいスピードで続いていた。読み終えた直後は高揚感が残り、この作品を映画にするのはやっぱり難しいだろうなあ、などと思い込んでいた。だが映画になった。今回の映画ではディーン・モリアーティ役の役者=ギャレット・ヘドランドと、アレン・ギンズバーグ役の役者=トム・スターリッジがとりわけいい。台詞も作品からの直接引用が随所にちりばめられている。ただ新訳本を読んだ当時と今回の映画を見終わった時とでは、なんだか自分が決定的に違った気持ちになっていることに気づいた。今回の映画を見終わった後は、〈かなしみ〉の感情が広がってきたのだった。高揚感よりも。
 僕がとっさに思い出したのは実は、日本の作家、鈴木いづみのことだ。「速度が問題なのだ。人生の絶対量は、はじめから決まっているという気がする。細く長くか太く短くか、いずれにしても使い切ってしまえば死ぬよりほかにない。どのくらいのはやさで生きるか?」。鈴木いづみはこの自らの言葉を実践するように生き急いで自死を遂げた。まるでディーン・モリアーティーの女性版みたいだ。
 湧き上がってくる過剰なエネルギーを蕩尽し続ける。そんなことができる時代状況とか肉体年齢とか、文化的な風土とか、若さとかいうものが、人間であることの証しだと信じよう。僕らはみんな死んでいく存在だ。夜になっても遊び続けろ。PC画面から路上へ。PC画面から街頭へ。PC画面から広場へ。PC画面からからだの物理的移動へ。矢印はそっちへ向かうべきなんじゃないのか。だからこの映画も映画館で見た方がいい。

(完)


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