集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


13-6(2) バシュメットの赤いチャンチャンコ

コンサート終了後の還暦祝いパーティーで 筆者撮影
コンサート終了後の還暦祝いパーティーで(筆者撮影)

 ユーリ・バシュメット&モスクワ・ソロイスツ合奏団のコンサートに出かけた。いきなりシュニトケ「室内オーケストラのためのトリオ・ソナタ」から入った。バシュメットは生前のシュニトゥケと交流があった。ロシアの偉大なる前衛の系列からバッハ、ビートルズ、武満徹まで広く深く音楽を愛するバシュメットの演奏活動に、なぜか幸運にも巡り合えてよかった。僕が1991年からモスクワに赴任して4年を過ごした経験の偶然の賜物だ。あの頃はまだリヒテルが生きていた。ロストロポーヴィチが亡命先から勇んで母国に帰国した時代だ。政治の激動の中で、いや激動のまっただ中だったからこそ、ロシアの音楽家たちはしっかりと生き延びた。そのバシュメットも今年の1月に満60歳を迎えた。モスクワでは5時間に及ぶ盛大なコンサートが開かれたそうだ。休憩後に演奏されたモーツァルトの「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調K.364」では、バシュメットと樫本大進とのデュオを堪能した。貴賓席には皇太子の姿があった。彼はヴィオラを弾く。バシュメットのファンなのだろうか。2年前、東日本大震災の直後に多くの音楽家たちが来日をキャンセルしたなかで、バシュメット&モスクワ・ソロイスツは、約束通り日本にやってきて、追悼のための曲から演奏を始めたことをよく覚えている。僕はそれを横浜でみた。とても緊張感のともなった演奏だった。彼は日本のことが本当に好きなのだと思った。今回も招聘先のジャパン・アーツの取り計らいで、コンサート後にバシュメットの60歳誕生パーティーが開かれた。そこでソロイスツのメンバーたちと話をする機会があったが、彼らも長いツアーの途上で相当に疲れていた。韓国から日本に回って来てこのあとはオーストラリアへ向かうのだという。しばらくして拍手に迎えられて樫本大進とバシュメットがパーティー会場に現れたが、ジャパン・アーツ側が用意した還暦祝いの赤いチャンチャンコと烏帽子を、バシュメットが喜んで着こんだ。これが妙に似合っていて会場から大きな笑いが沸き起こった。この日のアンコール曲は、ハッピーバースデートゥーユーのウィーン風、ハンガリー風のバリアントで、最後には武満徹の映画音楽『他人の顔』からの「ワルツ」。何と美しい楽曲だろう。この「ワルツ」と、シュニトゥケの「ポルカ」は彼のアンコール曲の定番だ。これからも何度でも聞きたい曲だ。


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