集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


13-6(1) 矢野顕子が忌野清志郎を歌ってる幸福

「矢野顕子、忌野清志郎を歌う」YCCW-10192(ヤマハミュージックコミュニケーションズ、2013)「矢野顕子、忌野清志郎を歌う」
YCCW-10192
(ヤマハミュージックコミュニケーションズ、2013)

 今年5月、恒例の武道館・忌野清志郎ロックンロールショーでの矢野顕子は確かに突出していた。僕はそのカバーアルバム『矢野顕子、忌野清志郎を歌う』を何度も何度も聴いたけれども、これは今年のアルバムのベスト1だなあ、と半年も経過していないのに早くも思ってしまう。清志郎の魂が矢野顕子に乗り移っちゃったみたいだものなあ。僕たちの世代はこういう才能と同時代に生きることができて本当に幸せだと思う。YA・SA・I=ヤサイと勝手に僕は言っているのだけれど、矢野顕子、坂本龍一、忌野清志郎の3人の同時代人の才能。今度のカバーアルバムでは『多摩蘭坂』とか『デイドリーム・ビリーバー』といったおなじみの曲以外の、清志郎の目立たない一見地味な曲が特にいい。『セラピー』(これは歌詞がすごくいい!)、『胸が張り裂けそう』『雑踏』『約束』などの曲。そういうなかでも特に『恩赦』という曲。武道館でも歌われて喝さいを浴びていたが、このアルバム全体でも断然光り輝いている曲だ。こういう希望の曲を歌える歌手が今の日本に一体何人いるんだろうか。厳罰化をがなりたてるあれらの人々が権力を掌握している今の世の中で。国家の厳罰化キャンペーンに喜んで曲を提供するようなあれらのニッポンの歌のギョーカイにあって、この曲は光り輝いているぞ! 歌手がみている風景のスケールが全然違うのだ。かつて清志郎がステージで履いていた特製ブーツを擬したピンク色のブーツをまとった矢野顕子は、ついに清志郎の魂まで身にまとってしまったかのような、そういうジャケット写真がいい。そして、アルバム最後に収録されている『ひとつだけ』だ。キーは清志郎にあわせているので、矢野顕子にとっては歌いにくい低いキーのポジションだけれども、合唱のところでピタリとキーがあう。こんな切ないデュエットが成立していたなんて奇跡だよなとつくづく思う。かつて坂本龍一さんと話をした時、この忌野・矢野版の『ひとつだけ』に話が及んで、矢野本人のオリジナルよりも歌が深化・進化した例として激賞していたことを思い出した。極論すると、この『ひとつだけ』と『恩赦」を聴けるだけでもこのアルバムを入手するべきだ。幸福はこんなふうにすぐ目の前にあるものだ。


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