集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


13-4(3) 家族みんなで会田誠を見に行こう、か。

会田 誠 《考えない人》 2012年会田 誠 《考えない人》 2012年
FRP、その他  高さ約300 cm
Courtesy: Mizuma Art Gallery
撮影:渡邉 修
写真提供:森美術館

 各方面で物議を醸したのか、そうじゃなかったのか、東京・六本木ヒルズの森美術館で開催されていた会田誠展『天才でごめんなさい』の最終日にのこのこと一人で出かけた。甘かった。午後4時ころに会場に到着するや、当日券を買い求める長い行列ができていた。カップルが圧倒的に多い。そうか。こういうのを彼氏や彼女とみるんだな。少したまげた。たまには家族連れがなぜかいたりする。考えてみるとその日は日曜日だった。家族みんなでお出かけしているのだから、そのなかに会田誠展があったっていいじゃん。そうなのだ。僕がとやかく爺さんのように文句をたれる事柄ではない。問題は会田誠を鑑賞することじゃないか。だが、美術展は観客が会場の環境を形作る。観衆(僕もその一人にすぎない)が、わんさかと押し寄せる満館状態でみる会田誠と、閑散とした会場で見る会田誠はちょっと違うんじゃないだろうか。で、結論的には、本当に来てよかったと思った。

 この毒。この悪意。この世界に対する違和感。居心地の悪さ。その感覚を共有して味わおう。会場が写真OKのところとダメなところがいろいろあって、写真の『考えない人』の像を撮っていても何にも言われない場所がある。ところが僕が最もこころを動かされた水墨画のような山の絵。その山はおびただしい数の背広を着たサラリーマンの死体でできた山なのだ。そこに込められた寓意の強度。そこでカメラを取り出して撮影をしようとしたら、若い警備の男性が横っ跳びで手をカメラレンズの前に差し出して、からだを張って撮影を阻止してきた。驚いた。その職務に忠実な警備の男性には何の悪意も抱いていない。それどころか自分の軽挙を恥じた くらいだった(ウソ)。そのまま目の前にある死体の山の水墨画風の大作をみた。そこにある背広を着たサラリーマンのひとりひとりが僕らだ。そして先ほど横っ跳びで介入してきた彼らだ。『ジューサー・ミキサー』に漂う静謐な暴力。学校で子どもに標語を書かせるポスター作品のスタイルを取り込んだ一連のポスター作品。居心地が悪い。不快感を提示する勇気。9・11以降、世界的にひどく注目されることになったあの『紐育空爆之図』。1996年にこんな絵を描いていたなんて本当に「天才でごめんなさい」だ。18禁部屋も含めて、家族連れで見に来た人たちには申し訳ないけれど、その一家には確実に抜けない「毒」が注入されたのだと思う。エイメン。

(写真筆者)「会田誠展:天才でごめんなさい」展示風景、森美術館
 2012/11/17-2013/3/31
 Courtesy: Mizuma Art Gallery
 撮影:渡邉 修
 写真提供:森美術館


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