集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


13-4(2) 二度目のジャコメッリ

(写真筆者)(撮影/筆者)

 マリオ・ジャコメッリの写真展は以前に一度だけ東京で開催されたことがある。その際に作家の辺見庸が書いたオマージュで僕はジャコメッリのことを知り、彼の写真を探しもとめたりしていた。今回の東京都写真美術館での写真展は、その時以来の日本では二度目の大規模展示だ。開催に先立って今回の展示のキュレーターをつとめたイタリアのアレッサンドラ・マウーロさんの解説を聞きながらのプレスツアーに参加したところ、これまでよりはジャコメッリのことが少しだけわかったような気がした。有名な「スカンノ」「神学生たち」や「ホスピス」シリーズを間近にみることができた。今回はさらに「シルヴィアへ」といった日本初公開の連作も含まれている。マウーロさんの解説によれば、ジャコメッリは「神学生たち」の撮影時、折から雪が降り出して来たのをみてカトリックの若い神学生たちを大急ぎで庭に呼び出したのだという。子どものように雪に歓喜して、ロンドを踊りだす光景や雪合戦もどきをする神学生たちをみて、ジャコメッリは写真をバシャバシャと撮ったのだという。「私にはこの顔を撫でてくれる手がない」という詩句をタイトルにした写真のあやうい歓喜。何しろマウーロさんはジャコメッリの生前最後のインタビューを行ったジャーナリストでもあるので、彼女の解説は本人から取材したストーリーをもとに写真撮影の背景の細部にまで及ぶ。強烈だったのは、「ホスピス」を撮影した一連の写真と、巡礼の地「ルルド」の連作だった。マウーロさんによれば、ジャコメッリは「写真集(Book)」タイプの写真家ではなく、「写真展(Exhibition)」タイプの写真家だったという。展示を前提としてコンテクストを重視する。そしてさらに「暗室の人」だったと。黒と白の強烈なコントラストを出す。ほかにも彼の写真には暗室でさまざまな加工が施されていたことを知った。実際「ホスピス」のなかで最も印象に残っている写真作品では、別の写真の部分が挿入されたりしたものもある。僕は、ジャコメッリに対して、禁欲的な写真家のイメージを勝手に抱いていたのだが、彼はむしろ現実に対して積極的に働きかけて、そのイメージを自分のなかで再構成して作品化する映像作家のような一面ももつ人物だと思った。それでいいのだ。それにしてもこのモノクロームの世界の何と詩的であることか。「スカンノ」の代表作であるあの写真の中央でこちらをみている少年。なぜにそこに孤独があるのか。

マリオ・ジャコメッリ 写真展
THE BLACK IS WAITING FOR THE WHITE
東京都写真美術館( http://syabi.com) 2013年 3/23〜5/12



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