集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


13-4(1) 高橋悠治を雨のように浴びるダンス

(写真筆者)(写真筆者)

 この2カ月あまりは映画やコンサートよりも舞踊・ダンスを見ることの方が比較的多かったような気がする。いくつかの収穫があった。特に久しぶりに見たスペイン国立バレエ団は、新監督にアントニオ・ナハーロを迎えて、以前の来日時やニューヨークで見た時とは格段に異なったステージを展開していた。新作『セビリア組曲』をみることができて本当によかった。黒を基調とした男性ダンサーたちの切れのいい群舞が素晴らしかった。定番の『ボレロ』も初めて見た時と今では随分と印象が違ってきて、今回は十分に堪能できた。フラメンコで『ボレロ』もありかな、と。そのほかにも勅使河原三郎も実験的な試みを披露していたし、野村萬斎の演劇舞台『マクベス』も、まるでダンスのような美を放っていたように感じた。
 そんななかで、今回特筆に値すると思ったダンスは、横浜の赤レンガ倉庫で繰り広げられた『海とクジラ』だ。赤レンガはおととしの笠井叡の『虚舟〜うつろぶね』でも堪能した場所だが、その時にも共演していた笠井瑞丈、そして上村なおかがデュオで踊り、高橋悠治がピアノを演奏した。そのコラボレーション。実にシンプルにして根源的。この組み合わせでは以前2008年に世田谷の劇場での共演も見た記憶がある。張りつめた緊張感の持続する笠井のダンスと、上村の求道的なまでの静謐さをたたえたダンス。高橋が間歇的にピアノで曲を演奏する。その関係はタイトルの通り、高橋の奏でる音楽が海なのであり、笠井と上村がその海のなかを泳ぐクジラなのだろう。高橋はバッハのゴルトベルク変奏曲を奏でた。高橋のゴルトベルクは、例えばグレン・グールドの演奏に比べるとかなりテンポが速いのだが、独特の間のようなものがあって、そのたびに感情が噴き出してくるような瞬間があった。特にこのダンス作品のラストでゴルトベルクの主旋律が奏でられた時の、天空からの「祝福」の音楽のような、まさにゴルトベルクをシャワーのように、雨のように浴びていた笠井と上村の動き(ほぼ立位静止に近い)に僕は言いようのない感動を覚えた。ひとは何故踊るのか。『海とクジラ』を見終わって、ひょっとして「祝福」という語がそれに対する一つの答であるように思ったのだ。日本のコンテンポラリー・ダンスの質は海外と比較しても非常に高い。そのことに寄与しているのは、やはり1960〜70年代の日本国内で起きた一種の文化大革命=舞踏を含む対抗文化の一斉開花が大きいのだと、今更ながら思う。


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