集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


13-2(1) 東北のグローリア

(撮影/筆者)(撮影/富永よしえ)

 迂闊なことに僕は、この1月にパティ・スミスが日本にやって来るということを直前まで知らなかった。それを知ったのは、デンマークのドキュメンタリー映画『アルマジロ』の試写会で、たまたま配給先のアップリンク浅井隆さんと話をした時だった。『ジャスト・キッズ』の日本語版出版のプロモーションも兼ねて、東日本大震災と福島第一原発の過酷事故後に初めて来日を果たしたいというパティ自身の強い希望から来日するのだと聞かされた。いけないな、どうも情報受信のアンテナが鈍ってきているな、と大いに反省したものだ。それを知ってしまった以上、動き出さないわけにはいかない。だってパティ・スミスなんだから。それでさっそく浅井さんと交渉してインタビューを申し込んだ。浅井さんの尽力で何とか時間がとれそうだという。アメリカに住んでいた時に何度かパティのステージはみていたけれど、まさか直に対面して話を聞けるとは思っていなかった。数年前、ワシントンDCのモールで開かれたイラク戦争反対の大集会のステージで彼女が『People have the power』をギター一本で歌っていた時に、僕はそれをステージ真下で取材しながらみていた。ニューヨークの小さなライブハウスで彼女が『ガンディー』を裸足になって歌っているのもみていた。この時も凄いパワーだった。当時彼女は60歳くらいじゃなかったか。『ジャスト・キッズ』は彼女自身の青春期の自伝だが、そのほとんどはパートナーだったロバート・メイプルソープとの出会いから死別までの濃密な時間の記録に割かれている。本自体とても面白い。「時代の力」を感じる。同時に、ニューヨークという都市のもっている強烈な文化生成の「場の力」も。渋谷のアップリンクの小部屋で行われたインタビューでは率直に思いをぶつけたが、本のディテールに触れた質問に対して「本当に読んでくれているのね」と嬉しそうに打ち解けてくれた。彼女の希望でコンサート・ツアーのキックオフは被災地の仙台から始まった。他人事ながら内心、心配だった。仙台でどれくらいお客さんが来てくれるものか、と。被災地の取材に何度か出かけた際も、僕は仙台や盛岡のありようにどこかで正直、違和感を感じていた。沿岸部の地域の津波被害があまりにひどく、その復興がなかなか進まないなかで、大都市圏との落差に勝手に戸惑っていたからなのだった。けれども、パティの演奏はそういうモヤモヤを吹っ飛ばしてくれた。震災をテーマにした『Fuji-san』や定番の『グローリア』を聞きながら、ああ、今、目の前に東北のグローリアがいる、と思わず僕は心の中で呟いた。


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