集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


13-1(1) 人を殺すことを快感にさせてしまう戦場

映画『アルマジロ』
1/19(土)より渋谷アップリンク、新宿K’sシネマ、銀座シネパトスほか全国順次公開
公式HP:http://www.uplink.co.jp/armadillo/

映画『アルマジロ』 1/19(土)より渋谷アップリンク、
新宿K’sシネマ、銀座シネパトスほか全国順次公開
公式HP:http://www.uplink.co.jp/armadillo/

 戦争をどのように描くか。従軍取材(embedded reporting)をめぐってはジャーナリズム論の文脈の中でさまざまな論議がある。だが、従軍をする側(組織メディアやフリーランスの記者、カメラマンら)は従軍によって出来るだけ戦争の実相に迫ろうとし、従軍をさせる側(軍や国家官僚、政府の当局者ら)は戦争に関わる自分たちの正当性をアピールする手段としてメディアを使おうとする。そのせめぎ合いのなかで、歴史上さまざまなことが起きてきた。だが、デンマークのヤヌス・メッツ監督のドキュメンタリー映画『アルマジロ』(2010年)ほど、この両者が「撮る/撮られる」の関係をギリギリの地点まで到達させた例を僕は知らない。アフガニスタン駐留の国際治安支援部隊(ISAF)を構成するデンマーク軍に配属された兵士を追ったメッツ監督らは、アフガン最前線の基地『アルマジロ』でタリバンを敵とする偵察・戦闘行動に従軍取材した。取材される兵士たちは、故国デンマークではごく普通の「善良な」若者のようにもみえる。その彼らが戦場において徐々に変化していく。非戦闘時、彼らは「退屈」を紛らわすために、ポルノ映画をみんなでみる。また戦争TVゲームに興じる。戦闘に赴く際、監督らは兵士と同じ視線で戦場で動き回るためハンディのビデオカメラを使う。英語では射撃すると撮影するは同じshootという語だが、まさに片や銃でshootし、片やカメラでshootしたのである。さらには5人の兵士のヘルメットにも超小型カメラを内蔵させた。このため「臨場感」は半端ではない。タリバン兵をせん滅するさま、その遺体をまるでモノのように扱うさま、敵を殺したあとの興奮した兵士の表情。歓喜の表情にさえみえる。多くを殺した兵士が英雄として隊内で表彰される。マッチョ丸出しのそのデンマーク兵士の狂気を非難するのはたやすいことだ。だが見ている観客はもっと本質的なことを突き付けられる。こんな人殺しこそが戦争であり、ひとは誰でも戦場においては残忍になり狂気に支配される。いや、この狂気・残忍さは人間の本質に根ざしているのではないか。そんな疑問さえ浮かんでくる。さらには、軍内部でこの作戦の不都合な事実を隠ぺいしようとしているかのような動きさえカメラは容赦なく撮っている。ここまで撮らせるものか、と驚く。映画公開後、デンマークでは、果たして故国の若者たちをこんな戦場に送っていいものなのかという大論争が起きたのだと言う。多くの人に見てほしい映画だ。


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