集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-12(3) 最前列のスティーブ・ライヒ体験、再び

撮影筆者
撮影筆者

 ライヒは癖になる。聴きだすとやめられない。何だかいきなり依存症か中毒患者みたいなことを書いてしまったが、それほどスティーブ・ライヒのミニマル・ミュージックの魅力は尽きることがない。そのライヒをコンサートホールの最前列でみた。東京オペラシティ・コンサート・ホールでのことだ。実は何を隠そう、僕はライヒのコンサートを以前も最前列で聞く幸運を味わったことがある。ニューヨークに住んでいた頃の2009年の3月だったか、リンカーン・センターのAlice Tully Hallでライヒが「18人の音楽家のための音楽」を演奏するというので、どうしても見たくて会場入り口に並んだ。チケットはとっくに完売だったが、キャンセルが万が一出た場合を当て込んで客が並ぶのである。1時間ほど並んで、まあやっぱり無理かと諦めかけていたら、何と最前列の真ん中のVIP席にキャンセルが出たというのだ。1枚だけ。それでその席にありつくことができたのだ。人生にはそういうこともあるのだ。日本では「ライヒ」だが、ニューヨークでは「ライシュ」と発音されていた。Alice Tully Hallで聴いた時もすっかりやられてしまったのだが、それ以来の生ライヒ最前列。今回はかなり前から大枚をはたいてチケットを買っていた。今回の演目は、コリン・カリー・グループ、シナジー・ヴォーカルズ、そしてライヒ本人の出演の組み合わせによる4曲。いきなりライヒとコリン・カリーの2人による「クラッピング・ミュージック」から始まった。そして「ナゴヤ・マリンバ」「マレット楽器、声とオルガンのための音楽」、休憩をはさんで「ドラミング」と続いた。実に堪能した。演奏者たちの緊張と息遣いがもろに伝わってきた。反復する音楽が徐々にずれていって「ゆらぎ」のなかにエモーションが生まれてくるあの手法。「ナゴヤ・マリンバ」を聞きながら、これはただならぬ演奏の技量が要求されているのだと思った。「ドラミング」も一時間近くに及ぶ大作だが、一気に聴き入ってしまった。いつものステージのごとく、分業工場の趣きで演奏が正確無比に行われるのだが、この湧きあがってくる感情のみなもとは何なのだろう。いつも思う。ライヒは1936年10月の生まれだというから、もう76歳を超えているのだが今もなお世界中を飛び回って演奏を続けている。ドイツ系ユダヤ人の出自を意識させられたのはオペラ「ザ・ケイブ」をみた時だったが、ライヒの音楽からはミニマル音楽の枠にはとどまらないスケールの大きさというか「歴史」を感じさせられる。


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