集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-12(1) 今度の弦楽三重奏はとてもいい

 公私ともに極度によろしくないことがあり、現実世界からまるで逃げ込むように、Blue Note Tokyo に入った。完売だったチケットにキャンセルが出たとのことで運よく入れた。今回のコンサートのベースになっている坂本龍一の『1996』は僕の大好きなアルバムだ。このアルバム用に録音されたのだが最終的には同アルバムに含まれなかった曲「Floating Along」がとても気に入っていて(テレビCMバージョンではなくて「The Very Best of Gut Years 1994-1997」所収のもの)、「筑紫哲也NEWS23」で働いていた時代に自分で作った企画モノで使わせていただいた。舞踏家・大野一雄の特集だった。その曲は弦楽三重奏で奏でられていたが、実に端正で繊細な曲だ。大野一雄がもっていた品格に見合う曲だ。その時のトリオのひとりチェロのジャケス・モレレンバウムに加えて、今回はヴァイオリンに新進のジュディ・カーンが参加してのトリオだ。とてもいい。オープニングの曲「Kizuna World」は、〈3・11〉以降に坂本龍一が何とか作り出した最初の曲で、大震災被害者への鎮魂の意志がこめられている。世界の報道写真家たちが撮った写真とともにこのレクイエムが流れた時に多くの人々が神聖な心持ちを抱いた。ほかにもこの日のBlue Note Tokyoのステージでは、「Voice of Nature」、さらにはワールドプレミアとなった「Wind, Cypresses & Absinthe」(東京都現代美術館で開催中のメトロポリタン美術館展のための楽曲)をはじめて聴くことができた。後者は演奏が難解そうな感じで(いや、僕なんかが言えることじゃないっすけど)、ちょっとバイオリンが弱いような気もしたのだけれど、聴き終わってみると、本当にこころが洗われた。この夜のコンサートは、何と坂本龍一のBlue Note Tokyo初見参ということだったそうだ。そう言えば、この場所には来ていなかったなあと合点がいくような、いかないような。もちろん『1996』所収の「美貌の青空」や「Tango」「A Flower is not a Flower」、そしてもうクラシックスになってしまった「Last Emperor」や「Merry Christmas Mr. Lawrence」もちゃんとあったし、アンコールの「Parolibre」まで心ゆくまで堪能した。“教授”はこのトリオで日本と韓国ツアーに出ている(12月21日まで)。僕はもう一度、Blue Noteよりもちょっと大きい場所で聴くことにしている。今から楽しみだ。ツアーが続いている間に日本の状況は、卑小な「政局」というレベルでは変化があるかもしれない。けれども音楽はより普遍的な価値につながっている。僕らは精神の自由を決して奪われることがないようにしよう。


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