集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-11(3) 裸足のピアニストをみる

 評判の裸足のピアニスト、アリス=紗良・オットを初めてみた。いま24歳の日系ドイツ人。本当にあっけらかんと裸足でステージに現れピアノを弾いていた。みずみずしさと強靭なエネルギーを体感した。裸足のミュージシャンと言って記憶にあるのは全然ジャンルが違うけれど、元ちとせがいる。その昔、テレビがもっと自由だった頃、広島の原爆ドーム前の路上でライブで歌ってもらったことがあったが、リハの時はスニーカーを履いていたのが、本番では裸足になった。すると、何だか足の裏で彼女がこの地球と直に交流しているような不可思議なパワーが沸いてきているようで驚かされたことがあった。もう何年も前のことだ。今回のアリス=紗良・オットも裸足になることでどこか地球とつながっているような感じがしたのだ。裸足は何かを解放する。事情があって、この日はアリス=紗良・オットのソロコンサートの後半だけしかみられなかったのだが、大いに後悔した。あんな「事情」なんか無視すればよかったなあ、と。きちんと聴けたのは、ムソルグスキーの『展覧会の絵』とアンコール曲2曲。それだけでもすっかり魅了されてしまった。裸足で踏みこむペダルの強い圧力が、観客席にも直に地続きで伝わってくるような気がした。『展覧会の絵』のあの耳に馴染んだメロディ・ラインが、展覧会場の作品から作品へと移動するストロークのような印象を与えてくれる。高い美術館の天井。個性的に自己主張する絵画たち。それが音楽化されたのがこの組曲だ。ムソルグスキーは、生前は薄幸の人で、ほとんど世に認められなかったという。この『展覧会の絵』も、ムソルグスキーの生前には一度も演奏されなかった。それが死後5年目の1886年に盟友リムスキー=コルサコフによって楽譜が出版されて以降演奏されるようになったのだという。アンコールはリストの『パガニーニによる超絶技巧練習曲第5番「狩」』と、シューマンの「ロマンス第2番」の2曲。演奏終了と同時にものすごい拍手が会場から沸き起こった。「演奏終了後、会場ロビーにてCDの販売とサイン会が行われまあす」と何やらアナウンスしている。どうしようかな、と迷ってウロウロしている間に、ざっと150人くらいの行列があっという間に出来てしまった。うーん、CDと会場での生の演奏は全然違っている場合が多いんだけどなあ、と迷っていたら行列は200人をとっくに超えていた。これはあきらめるしかないよなあ、と断念して会場をあとにした。新しい才能をみることは、それだけでなぜか嬉しくなる。

◎アリス=紗良・オット オフィシャルサイト
 http://www.alice-sara-ott.com/sites/japanese/home.html


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