集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-10(2) [798]で中国現代アートの魅力をみる

「798」のギャラリーにて 胡根華「女人」の前で(筆者撮影)
「798」のギャラリーにて 胡根華「女人」の前で(撮影/筆者)

 日中国交正常化40周年の日に、北京からのテレビ放送生中継のため、8年ぶりに北京を訪れた。毎回、訪問のたびに北京の街並みは急激な変貌ぶりを見せてくれるのだが、今回ばかりはそのあまりの変化の大きさに大いに戸惑った。特に北京五輪後の高層ビルの急激な林立ぶりと、「鳥の巣」と呼ばれる五輪メインスタジアムの必要以上に巨大な形容や、「デカパン」と市民から揶揄される中国国営中央テレビ(CCTV)本局舎の不必要な巨大さには正直に言えば辟易した。そういう感想を付き添いの中国人コーディネーターにぶちぶち言っていたら、「金平さん、じゃあ[798]に行きましょう!」と言われた。[798]とは何か。それはかつて巨大な(中国は何から何まで巨大なのだった。国際空港も天安門広場も)軍事工場があった跡地が、政府によって芸術家たちに開放され、多くのアトリエ、スタジオ、ギャラリー、ショップ、街頭の展示スペース、海外から招聘されたアーティストたちの工房などが軒を連ねている巨大な(またもや!)芸術家村なのだった。広大な敷地なので一日ではとてもまわりきれないほどの規模だ。どうせ、国家がスポンサーのアーティスト村なんてロクなもんじゃないでしょ、という先入観が正直あったのだが、作品を見てゆくうちに、どんどんとその魅力に引き込まれていってしまった。もちろん二度と見たくもない巨大な(またもや!)オブジェのようなものもあったのだが、現代アートの分野では、みずみずしいポップな感覚が溢れた作品や、猛烈な毒や風刺、鋭い批評を含むアート作品群を目にして嬉しくなってしまったのだ。21世紀の中国版ウォーホール的とでも言おうか。それは、社会主義であろうが、資本主義であろうが、中国王朝であろうが、中国という国家のDNAに共通して息づいている「中華思想」を徹底的に客体視する視点であり、自己を凝視する視点であったりする。断っておくが、僕の言う「中華思想」の意味は、日本という国家のDNAに否応なく染みついている「島国根性」と同じレベルで言っているだけのことだ。巨大なハンバーグの真上に肥満した中国人女性のエナメル質のてかてかした裸像が乗っている。女性のお尻をかたどったオブジェが無数に花弁のように並ぶ作品。明らかに文化大革命をおちょくったポップな味のポスター。と思えば、村上隆や草間彌生を思わせる新感覚の作品も随所にある。なにはともあれ、ものすごいパワーだ。そういうオブジェを中国人の観客たちは写真に撮りまくり、あるいは無造作に手で触っていたりする。日本の美術館は何て不自由なのかと思わされてしまう。作品と観客の距離がないのだ。ここから生まれるエネルギーは日本ではなかなかお目にかかれない代物だ。今のような時代に、無人島の領土をペインティングしてしまう自由な発想を、果たして日本の、中国のアーティストたちは持ちうるだろうか。


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