集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-10(1) 悲しみの湖を宿した眼

横浜美術館「奈良美智:君や僕にちょっと似ている」より(撮影/筆者)
横浜美術館「奈良美智:君や僕にちょっと似ている」より
(撮影/筆者)

 横浜美術館で開かれていた奈良美智展の会場で驚いたことは、訪れていた観客に子供たちがとても多かったことだ。確かに奈良の描いているモチーフは少女や動物が多いのだが、だからと言って子供たちにとってすぐに受容されやすいかどうかは別の問題だ。と言うか、奈良の描いている子供・少女は、確かに「無垢」であるのだが、さまざまなコンテクストのなかで、「無垢」であることは時として、怖く、無慈悲で攻撃的で、また残酷であったりする。そして勿論、はかない。今にも泣きだしそうなのを必死にこらえている少女の肖像は、子供たちの眼にはどのように映っているのだろうか。それは単純な受容ではないと思う。だから作品展のタイトル『君や僕にちょっと似ている』は挑戦的でもある。
 今回の新作展の特徴のひとつは、ブロンズ像の作品群が多く展示されていたことだ。会場入り口にいきなり白いウレタン製の『ホワイト・ゴースト』の大きな像が立っていた。続いてのスペースに少女たちの大きな頭部をかたどったブロンズ像がいくつも並ぶ。圧倒的な存在感だ。まるで仏像に対しているような感覚に襲われる。
 もうひとつの特徴と思われるのは、〈3・11〉によって奈良が決定的な影響を被ったと思われることだ。2012年に描かれ作成された作品全体に漂う深い悲しみ、傷のような感覚。それがひしひしと伝わってくる。特に眼。『Young Mother』『ブランキー』『春少女』といったアクリル・カンヴァスに描かれた少女・女性たちの深い、深い悲しみを湛えた眼。じっと対峙していると、おもわずこちらももらい泣きしたくなるような涙の湖を宿した眼だ。『Cosmic Eyes(未完)』の少女の眼をよくみると、そこには「OH MY GOD」(何ということだ)という文字が隠し文字のように刻印されている。『Under The Hazy Sky』に至っては、その眼が今度は伏し目になって悲しみが倍加する。少女の小さな手には若芽のようなものが握られている。少女たちに一体何があったのか。〈3・11〉と福島第一原発事故の影をみてとることは決して牽強付会な解釈ではない。今回の作品展は、奈良が生まれ育った青森でも開かれる。原発と核燃料サイクル基地を抱える故郷に対する奈良の思いは複雑だろう。
 プログラムの冒頭で奈良はこんなことを記していた。〈2012年の現在…(略)…僕は作品を自分の元から旅立たせること(作品自体としての自立)を現実的に考えられるようになったようだ。…(略)…自分の肉体が滅んでも、人類が存在する限りは残っていくものということだ。〉
 人間は類的存在である。マルクスではないが、そのことに対する発見が奈良作品に転機を与えたのではないか。


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