集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-9(4) 女性を凝視する女性監督の映画

 西川美和の映画『夢売るふたり』をみた。前作の『ディア・ドクター』から3年を経ての作品だ。今回もストーリー展開の豊さに魅了され、時間を忘れさせてくれる。と同時に、こわい映画だとも思った。それは女性を凝視する女性監督の映画だからだ。男にはこういう映画は作れない。何だかむき出しの女を見せられたような感覚か。石内都の写真集『Mother』を見終わった時の感覚に近い。ストーリーには、OL(こういう言い方って死語だよね)、主婦、小料理店のおかみ、デリヘル嬢、女子重量挙げ選手など、日本の都市に住むさまざまな生き方をしている女性たちが登場してきて、一様に何かを渇望している。孤独から逃げようとして何かを求めている。それらの女性をありのまま、誰かが勝って誰かが負けてというような視線ではなく、ひたすらフラットに凝視しているこの映画の視線がいい。アメリカのフェミニズムの立場に立ったようなハリウッド映画は、結局、勇気のある特別な女性が勝利を勝ち取るというパターンが多いのだが、この映画はそうではない。多くの生物に共通する結婚というペアリング行為は、生物学的な生殖以外に、女性にとってどんな意味を持っているのか。それは幸福を得るためのゴール? 永続する恋愛? 安定を得るための制度? あるいは、弱さを抱えた一対の男女がせめてもの支えを相手に見出すためのシェルター? そういう問いに対する答えがじわじわと感得される仕組みになっている。
 前作もそうだったが、西川作品の魅力のひとつは、台詞のない顔の表情のアップにある。松たか子の押し黙った顔の表情がさまざまな想像力をかきたてる。それは演技以上のものだ。だから映画という表現は面白いのだ。松たか子の自慰シーンや、生理用ナプキンを何気なくつける場面などは西川作品特有のものだろう。この映画に登場する女性に比べれば、男はひたすら弱い。情けない存在でしかない。阿部サダヲ演じる主人公役の板前は、結局のところは、悪に徹することのできない弱い善良な存在であって、松たか子の「狂気」におじけづく存在でしかない。それにしても、阿部演じる主人公が、結婚詐欺を仕掛けていくうちに、はじめは相手の女性の人格を踏みにじり、カネを容赦なくだまし取っていたのが、ついには、すがりつくような孤独からの救済を求める女性に良心の呵責を覚えてしまい、詐欺を放棄していってしまうストーリー展開「=魂の浄化」の見せ方は、見事というほかない。これも「人間讃歌」のひとつだろう。


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