集英社新書
カルチュアどんぶり
作者近影 金平茂紀(かねひら しげのり)
TBS「報道特集」キャスター。1953年北海道生まれ。1977年TBS入社。報道局社会部記者、モスクワ支局長、「筑紫哲也NEWS23」担当デスク、ワシントン支局長、報道局長、アメリカ総局長及びTBSインターナショナル副社長等を歴任。2004年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『テレビニュースは終わらない』『世紀末モスクワを行く』『電視的』『二十三時的』『ホワイトハウスから徒歩5分』『報道再生ーグーグルとメディア崩壊』(河内孝氏との共著)他。


12-09(1) ベトナムの新しいアートの息吹き

Vietnam Now 展の会場にて(撮影/筆者)
Vietnam Now 展の会場にて(撮影/筆者)

 旅先でふらりと画廊に飛び込んで思わぬ作品に出会ったりすることがある。そういうことの始まりは、1991年から94年までのモスクワ支局勤務時代、散歩の途中に市内の各所にあった公営画廊(フドージェストビエンヌイ・サロン)に頻繁に立ち寄ったことだった。ソ連が滅びようとしていたあの時代、画剤も絵具も手に入りにくかった時代であるにもかかわらず、それでも描かずにはいられなかった画家たちの意欲的な作品群に出会ったりしていた。先日、取材で香港に久しぶりに立ち寄った際、短い時間の隙間をみつけて、交易広場の高層ビル・ロビーで開かれていた『ベトナム・ナウ(越南・今日)』という作品展をのぞいてみた。これがとても面白くて、ベトナムという国が今、強烈な変化の時期を迎えているような印象をもろに受けた。2人の女性作家を含む全部で6人の若手アーティストが参加している。ポップな商業デザイン風の作品があったり、前衛書道風の作品があったり。中国の書道の伝統と絵画の融合を思わせる手法による作品は、日本や中国の書道展でもみたことがあるが、ベトナムの作家たちはさらに大胆に絵画との融合を進めていた。面白い。そして、僕がもっとも驚いたのは2人の女性の作品の新鮮さだった。30代と40代の2人だったが、ハノイ生まれのNguyen Thi Chau Giangの絵画は、フェミニズムの色濃く出た作品だった。ひとりひとりの個性をもったベトナム女性が、いまのベトナム社会で何を感じているかの強烈なマニフェストのようにも思えた。タイトルにもそれが現れている。『どの顔が私にお似合いかしら』『どれが私の本当の顔?』『仮面とのダンス』『眠らないこと』『彼女たちのようになりたくない。彼女たちも私のようになりたくない』。絵をみている人に迫ってくる強いメッセージを感じる。もうひとりの同じくハノイ生まれのNguyen Thi Chinh Le は詩人にして彫刻家だ。小さなブロンズ像の集合体が強烈な個性を放っていた。オープニング・レセプションの会場で彼女は民族衣装をまとっていた。少しだけ話をしたが物静かなたたずまいの女性だった。いずれの作家の作品にも、根っこのところにベトナムの伝統文化の基盤のようなものがしっかりとある。ベトナムの人でなければ、だからこういう作品は制作し得ない。しかも新しい息吹きを孕んだこれらの作品群が香港の市場で発表されてどんどんと流通して行く。何だかひどくラッキーな出会いをした気分になって会場を後にした。

※プレス関係者による会場の撮影は、すべて主催者の了承のもとで行われました。


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